ロールプレイ (Page 5)
暗闇を吐息で白く濁しながら、二人はしばらくの間無言で身を寄せ合う。
呼吸が整うと、いつの間にやらかいていた汗が冷えてくる。いそいそと身なりを整えて、竹野と蓮見は小屋を後にする。
普段と変わらない顔をして二人は夜道を歩く。
同級生。役者と脚本係。肉体関係のある男女。
幾つもの役割が二人の関係の中にもある。
だが、それはあと数か月で解消されてしまう。
学生の関係性をリセットしてしまう一大イベントといえば、卒業だ。
惜しくないと言えば竹野にとって嘘になる。蓮見との付き合いで演劇と出会い、プレッシャーはあったが楽しいものだった。だが、彼らにとって物語を作るのは、蓮見という人物のためでしかなかった。
出発点がそこだったのなら、卒業という別れが終着点というのも悪くないかもしれない。
竹野は、そんな風に一人感傷に浸りながら歩いていた。
しかし――
「ねえ、私は竹野のこと好きだけど。君は?」
「あぇ?」
間抜けな声が竹野の口からまろび出た。
「君との関係を卒業程度で終わらせるのは、もったいないかなって思うんだよね」
「……大学、違うし」
「大学が違ったって、一緒にいてもいいんじゃない?」
竹野が横目で見た蓮見は前を見て笑っている。
「大学のカッコイイ先輩とかに寝取られそう」
ぼそっと竹野が言うと蓮見は口を大きく開けて笑う。
「はははっ、かもね! その『カッコイイ先輩』が君よりも面白い脚本が書けて、君よりもセックスが上手だったら、そうなるかも」
「なんか、あっさり僕は捨てられんじゃないかって気がするよ」
「じゃあ、私を飽きさせない男を目指してよ」
「はいはい。仰せのままに、王子様」
「お姫様にしてよ」
「そのうちね」
かっこいいお姫様の話でも書くか、と竹野は思うのだった。
(了)
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