死せる花の箱庭 (Page 5)

 自室から出ると、まず目に入るのは中庭である。そこには達哉と亜沙子が仲睦まじく庭の手入れをしている姿があった。

 室内と中庭を隔てる窓。その窓枠に手を突き、耕平は小さく溜息を吐く。

 彼の吐息で微かに曇った窓ガラスの向こうは、決して届かない理想郷だ。

 かつてあった光景。

 幾度も再生される昔日の面影。

 人類は自らと寸分違わぬ機械人形を造り出すことに成功していた。何世紀もの研究開発を経て、様々な分野にその裾野を広げている。

 そんなアンドロイドを使って、耕平はある事業を始めたのだ。

 故人の再生サービスである。

 元は彼が亡くした息子夫婦を再現したことがスタートだった。様々な記録メディアを通して思い起こされる思い出だけでは決して埋められない孤独。それを耕平は、故人の人格を模したアンドロイドで埋めたのである。

 賛否あったが、すぐに世間には受け入れられ、耕平はその事業で成した財によって、現在は隠遁生活を何不自由なく送れていた。

 世間と隔絶された生活の中で、彼は幾度も息子の妻を凌辱している。

 性欲の処理をしたかったわけではない。

 ただ、息子と、その妻の間にあった愛を確かめたいのだ。

 何人にも引き裂けぬ愛という、達哉と亜沙子の生きた証を耕平は確かめたかった。

 死せる花の咲く箱庭で、彼は昔日を繰り返し生きている。

 自らの死の、その日まで。

(了)

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