空似 (Page 3)
「は?」
「引っかかった」
女性は楽しそうに言って、鏑木の肩から手を離した。そして、彼の手を取ると掌へ車の鍵を落としてみせる。
「なんだ、その格好?」
鍵を受け取った鏑木は半ば呆然として訊ねた。
女性はセーラー服を着ていた。
年増が着ているような雰囲気はない。少々大人びた少女のようにすら見えた。元々年齢不詳気味な面立ちをしている女性だったが、あまりに違和感がないのでかえって違和感がある。
少女にはない体の円やかな曲線と成熟した女性としての芳香。それと相反するような細い顎のラインや袖口から見える手首の華奢な感じは、成長途中の生娘のよう。
「借りちゃった」
言葉遣いや声音にも心なしか幼さがある。
その場で女性が一回転した。スカートの裾が遠心力に引かれて広がる。裸足の爪先の桜色の艶やかな爪が妙に目を惹く。
「これ、母校の制服なのよ」
「え?」
「もう廃校になっちゃったけど」
「……じゃあ、持っていけばいい。廃校なら買い手はつかないから」
「いいの?」
黙って頷き、鏑木は女性から目を逸らした。
そんな彼の手を女性が引く。強い力ではなかったが抵抗できず、鏑木はバランスを崩した。咄嗟に掴まれていない手をついたのは、ボンネットの上だった。その拍子に耳障りな音を立てて車のサスペンションが鳴る。
「ねえ」
鏑木に押し倒れたような格好のまま、尻から上をボンネットの上に寝かして女性が言う。
「しよう?」
するりと女性の両手が鏑木の首へ回された。蛇のような滑らかさと素早さ、そして思わぬ強さで女性は鏑木の顔を強引に引き寄せる。そして、接近した二人の唇が重なる。
二人とも目は閉じなかった。
至近距離でお互いの眼球を覗き合う。
女性の瞳は黒々と深く、何の想いも汲み取れはしない。言葉もなく、想いが通じ合うこともなく、舌先だけがお互いの裡へと潜り込もうと蠢いた。
ちゅぱちゅぱと音を立てて唇を吸い合い、唾液を交換するような舌使いで絡み合う。歯列をなぞってはお互いの舌裏をくすぐった。
「ふっ、くっ、はぁっ」
徐々に熱を帯びた吐息が女性の唇の端から零れるようになる。
鏑木は女性の上から体をどかし、強引に足を大きく開かせた。スカートが際どい所までめくれ上がり、白い太腿の大半が露わになる。全て露出してしまうよりも秘された場所があるだけで淫靡さが違う。
膝の横から太腿の内側へと鏑木は舌を這わせる。
「んぅ!」
声を上げ、女性の体が跳ねた。
さらに鏑木は舌を進め、スカートにまだ隠れている場所への侵略を開始する。唾液の在跡を残し、彼の舌先は内腿、そして鼠径部を愛撫する。
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