夜の底から (Page 4)
そうやってストレッチをしていると、ユニットバスから佐奈美が顔だけ出す。
「……ねえ、ユウちゃん。一緒にシャワー浴びよう?」
彼女の顔には媚びるような、祐悟の知る佐奈美には似合わない表情が張り付いている。
「そんなこと、僕にはしなくていいよ」
「私の体、傷があるから、だめかな」
「それ、僕に言うの?」
祐悟は立ち上がると服を脱いだ。露わになった上半身には無数に傷があり、背中には月面のクレーターのように円形の火傷痕が群を成している。
「……お揃いだね」
苦笑しつつ佐奈美の口から放たれた言葉に祐悟は戸惑う。
「えっ?」
「私達、傷ばっかり」
憑き物が落ちたようなさっぱりした顔で、佐奈美は笑う。それは子供の頃によく祐悟に見せていた笑顔だった。つられて祐悟も笑む。子供に戻ったように、くすくすと笑い合った。
「ねえ、一緒にシャワー浴びようよ、ユウちゃん」
「もういいってば」
「昔は一緒にお風呂入ってたじゃない。いいでしょ?」
「…………分かった」
祐悟が渋々頷くと、彼女は顔を引っ込めた。
全てを捨てて逃げ出し、重荷がなくなったのか佐奈美は少しずつ祐悟が知っている明るさを取り戻しているようだった。
服を脱ぎ、祐悟はユニットバスへ入る。
湯気と佐奈美の裸体が彼を出迎えた。
大小様々な傷が佐奈美の裸体を這い回っている。細身の色白の体には、まだ新しい痣が幾つもあり、祐悟は微かに目を細めた。
「体、洗ってあげるね?」
くるりと佐奈美が祐悟に向き直った。体を隠すつもりはないようだ。そのため、祐悟の目には形の良い乳房やその先端の桜色の突起、ほっそりした腰回りのさらに下にある茂みまで写ってしまう。
長い黒髪がしっとり水を吸い、肌にまとわりついている様子は、妙な色香があって祐悟は今度こそ目を逸らした。
そんな彼にはお構いなしで、佐奈美はボディーソープをたっぷり手に取り、体を密着させる。弾力のある女性の感触に祐悟は息を飲んだ。
ゆっくりとボディーソープが祐悟の体の表面で泡立ち、それを佐奈美の手が塗り広げていく。他人の手指が肌の上を這い回る感触は、奇妙な快感を祐悟に与える。
「うぁっ」
思わず祐悟が呻いたのは、彼女の手が男根に触れたからだ。
「暴れちゃだめ。ここもちゃんと綺麗にしないと。ね?」
子供のように諭され、祐悟は冷静さを保とうとしたが、陰茎、睾丸と彼女の細い指がやわやわと揉み、あるいは優しく扱くのであっさりと勃起させてしまう。
「どうして、こんなこと」
「ユウちゃんのつけた傷が欲しいの」
「傷なんて、つけないよ」
「好きな人に抱かれるのは初めてだから、そのつもりでいたいの」
祐悟は佐奈美を抱き締める。ぬめりのある感触とその向こうにある確かな体温を感じた。
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