絶望と花と縄師
縄師の山城は自分の作品について悩んでいた。だが佐藤という依頼人の所で複数の男に犯されて花を投げられた女を見て、これだと悟る。法に触れることをしようとしている山城に気づいた弟子の犬飼聡美は、山城を止めようと自分の体を張るが……。
依頼主の家に向かいながら、山城は今日でこの仕事を辞めようと考えていた。
大学を卒業してすぐに、体を縄で縛る縄師、または緊縛師と呼ばれる仕事について10年、技術は誰にも負けないと自負しているものの、物足りなさを感じていた。
自分の作品には何かが足りない。だが、何が足りないのか分からなかった。
依頼主は見るからに堅気ではなかった。角刈りにした白髪混じりの髪に着崩したスーツのポケットに手を突っ込んでいる。
佐藤と名乗った男は、蛇のように冷たい目で山城をねめつけた。
「じゃ、早速お願いしますわ」
佐藤が先にたって廊下を進む。なかなかの豪邸だった。
通されたのは和室だった。床の間に水仙が飾ってある。布団の上に女が裸で寝ていた。30代くらいの、少し体の線が崩れた女だった。
「あの……」
「なんや、裸の人間を縛るのは初めてか?」
「あ、そうではなく……眠っていますが……」
「寝てたらあかんのか?」
「いえ……」
同意を得ているのか気になった。だが深入りするのはやめようと、山城は訊くのをやめた。
「そや、意識のない人間は重いやろ。……入って来い!」
佐藤が呼ぶと、ドアが開いて3人の男が入ってきた。いずれも屈強そうで柄が悪そうな顔をしている。
「縄師さんが縛るんを手伝え」
「はい」
山城は恐縮しながら女を縛った。いわゆる亀甲縛りという縛りである。
「おお、こりゃ見事なもので」
佐藤が満足して頷いている。
これで仕事は終わりだ。
帰ろうとした山城に、佐藤が声をかけた。
「なあ縄師さん。この後、この女がどうなるか、見てみたいか?」
誘いに乗らない方がいい。
分かっていたが、これが最後の仕事だと思うと知りたくなった。
佐藤が小瓶のふたを開けて、女の鼻先に持っていった。女がうめいて目を開ける。
「……え? 何これ」
キョロキョロして、佐藤と目が合う。怯えて後ずさろうとして、縛られているのに女が気づいて体を縮めた。
「ようもまあ、俺を裏切ってくれたな」
佐藤がニンマリ笑う。
「組の金を持ち出して、若い男と逃げようとするなんてなあ」
「……あの人はどうしたの」
「あいつなら、今頃どこぞの海の底に沈んどるかもなあ」
女が叫び出した。
「最低よあんた! 寝取られたからって、ひいっ!」
女が悲鳴を上げた。佐藤が飾ってあった水仙を取って、女の秘部にねじ込んだのだ。
「花が咲いたで。綺麗やなあ」
女が泣き始めた。
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