ご注文は花の罰ですか? それなんですか? 襲っちゃっていいですか?
とある街中にある設計会社、そこでは仕事場内に生け花を欠かさなかった。その手入れをしていた主人公の手際を花瓶の精が誤解してしまい、花の精に、主人公へ花の罰(バチ)をあてるように嗾(けしか)けるのだが…… おとぎ話風のショートエロです。お気軽にどうぞ。
 街中にある設計会社。
 そこでは他の会社と同じく、業務をリモートワークに変更していた。
 職業柄その変更は容易だったし、社員からも不満はあがらなかった。
 それで会社内は閑散としていた。
 のだが……
『これは一体どういうことなのかしら!?』
 早朝、無人の広いオフィスに声が響く。
 開き気味になっているブラインドから入ってくる朝の白い光。
 それに映し出されるように佇む、華やかな和服の女性。
 綺麗に結われた黒髪の下は白磁のような肌。
 年齢は四十絡みか、美貌だが未亡人のような憂いを持つ顔。
 高価そうな帯に締められた、花柄模様の派手な着物を着こなす体型。
 有体に言うと、フロアと通路を仕切る背の低い棚の上に乗っている花瓶。
 それが擬人化したもの、即ち花瓶の精だ。
『わたしにきかれてもぉ……』
 給湯室にある大きなパントリー。
 その下側のゴミ箱から、小さな三頭身のアニメ風キャラが出てきた。
『わからないんですぅ、花瓶の姐さん……』
 ふわふわでかるくウェーブのかかったピンクの髪。
 白い肌、ひらひらの明るい萌黄色のドレス。足元は裸足。
 大きな瞳には困惑の色を浮かべている。
 ゴミ箱の中は捨てられた金魚草だけだったので、その花の精らしかった。
花瓶の精が、固そうな草履を大股に運んで金魚草の精に近づく。
『なんで人間たちが来ないのかなんで分からないの!?』
 詰め寄る花瓶の精。
 しかし、金魚草の精に人間の事情など分かる筈もなかった。
 その戸惑う目に。
「おはよーございまーす……つっても誰も居ないか」
出社してきた男性従業員の姿が映った。
『あ、いつもの人ですよ、私たちの手入れをしてくれてる……』
 あわてて元の姿に戻る、金魚草の精と花瓶の精。
 その彼女らの前を、全く気づかずに男性従業員は通り過ぎた。
『こいつは知ってるわ。名前は香住田 藻也(かすみだ もや)といって』
 その藻也はフロアを見おろす一段高い位置にある席についた。
 そこは普段、部長が座る席だった。
「あ、部長、お早うございます香住田です……ええ、特に問題なく……」
 そして、その席の主に電話を始めた。
 どうやら職場のチェックに来ただけのようだった。
『年齢35歳で、年齢イコール彼女いない歴なクズ男よ』
『彼女いないのはカンケイないんじゃ……』
 金魚草の精の弱々しいツッコミに、少しの疑問を覚える花瓶の精。
 自分は何故、こんな冴えない中年手前の男が気になるのだろうか?
 少し前までの通常のシフトの中でも、藻也は再三徹夜仕事をしていた。
 自動的に一番の出社になる為、生花の手入れも彼の仕事になっていたのだ。
「そこは帰りに寄ります……ええはい、徹夜明けですし……では失礼します」
 しかし、花瓶の精にはそんな事情は分からない。
 十数年前から始めた生花と花瓶の手入れ、最初は頼りなかった。
 それが最近では手馴れてきて、花瓶も信頼できるようになってきたのに。
 何故か放置されてしまったので、花瓶の精の疑問はもっともではあった。
 が、それでも藻也が気になる事の説明にはならなかったが。
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