ご注文は花の罰ですか? それなんですか? 襲っちゃっていいですか? (Page 3)

「早く治まってくれるといいんだが」

「まったくですね。その時にはまたよろしくお願いします」

 会社のほど近くにある生花店。
 藻也は、50絡みの男性と定型な挨拶を交わし、そこから離れて行った。

 生花店があるビルの隣のビル。
 その陰から様子を窺っていた花瓶の精が。

『じゃあ、行って見ましょうか』

 花瓶の精は、唐突に提案した。
 人がいないように見えて、実はちゃんといるんじゃないのと。
 だから、人がいる建物の中を見れば閑散の理由も見える筈と考えたのだ。

『ええっ!? ちょ、ちょっと待って』

 金魚草の精は、あわてて擬人化を解いて花瓶の精の袖に入った。
 そして疑問に思った。
 姐さんは人にその姿を見られても平気なのかと。

『誰も居ないようね……』

 花瓶の精が、半分ほど上げられているシャッターの奥を見ながら。
 薄暗いそこには数多くの広口のバケツと、それら全てに満杯の生花。
 ほぼ全て、元気のない花相だった。

『オマエたちを買ってくれる人は、どこに行ってしまったのかねえ?』

 最も手前のバケツの黄色いバラに向かって話しかける花瓶の精。
 そのしゃがみ込んだ背中に声がかけられる。

「お客様とは珍しい」

 ゆっくりと振り向く花瓶の精。
 その目には、先ほど店の奥に入った筈の50絡みの男性が映っていた。

『……邪魔したね』

 花瓶の精は動揺を抑えながら立ち上がり、非礼を詫びて立ち去ろうとした。
 しかし。

「おおっと、手ぶらで帰すなんて俺はそんな無粋じゃないぜ」

 屈託のない明るい笑顔でもって、花瓶の精は離脱を諦めさせられた。

「実はキャンセルの嵐でね、どうせ捨てるのならせめて一輪ずつでも」

 50絡みはそう言ってバケツから一輪ずつ抜き取り、大きな花束を作った。

「ちょっと重いかもしれんが、持って帰って生けてやってくれ……って」

 花束を渡しながら、50絡みは花瓶の精の姿をしげしげと眺め始めて。

「ネエさん、あんたひょっとして」

『ありがとうね、こんなに沢山。花を持つのは得意だから心配はいらないよ』

 と、何かに気づきかかった風の50絡みに被せるように言った。
 そして。

『はやくおさまると良いね』

 と、先ほど50絡みが藻也に言ったのと同じことを言った。
 もちろん、それが何を意味してるのか花瓶の精には分かってなかったが。

「あ、ああそうだな……」

 そして、毎度ありとかまたのご来店をとかの常套句を言おうとして。
 それこそ無粋だと気づいた50絡みは、黙って人にあらざる者を見送った。

 ………………

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