ご注文は花の罰ですか? それなんですか? 襲っちゃっていいですか? (Page 4)

『なによ、けっこう綺麗にしてるじゃない』

 10畳にロフト付きのワンルームマンション、その廊下部分で。
 開けっ放しのドアの向こうの居間を見ながら花瓶の精が言った。
 藻也は部屋に着くなり、すぐに着替えてベッドで横になっていた。

『独身だから、もっと汚くしてるものだとばかり……』

 花瓶の精が意外に思ったのは、それだけではなかった。
 さすがに数人の人通りはあったものの、電車も駅も超閑散。
 駅からこの藻也の部屋がある住宅街まですら数人としかすれ違わなかった。

 しかし、花束についてきた花の精は数十を数え、賑やかになっていた。
 それらが一斉に花瓶の精の目的と顛末を尋ねた。
 流しに置かれた花束の中で、花の精らしく、明るく笑いさんざめきながら。

 だが花瓶の精は、未だに藻也に対する感情が何なのかを掴みかねていた。

 オダマキの精は、それを愚かだと言った。
 アネモネの精は、人から見捨てられたのだと主張した。

 それら花の精たちの言葉は、いずれも花瓶の精の心には響かなかった。
 彼女らはいつも同じことしか言わないからだ。
 それで面倒になって。
 花瓶の精は、花の精たちに藻也へ罰(バチ)を与えるように命じた。

 花の精といっても所詮は植物。
 器物とはいえ百数十歳から命令されては断る術を持たず。
 姐さんは堅物だから仕方ない、とかぶつぶつ言いながら。
 花の精たちは居間に入っていったのだった。

 そしてベッドの上で寝息を立てる藻也の前で、花の精たちは困惑した。
 罰といっても、具体的にどうすればいいのだろう?

 寝るのを邪魔されるのは罰になるだろう。
 そう考え、花の精たちは花の外観に戻って藻也の睡眠を邪魔する事にした。

『……はなはなぁぁ』

 などと、力の抜ける掛け声をかけながら。
 花たちは、ワサワサと藻也の顔や腕などを触り始めた。

「な、なんだ……?」

 色とりどりの花に起こされるとは、なんと甘美な目覚めだろうか。
 藻也も当然のようにスムーズな目覚めを見せた。
 そして。

「アンタはだれだ?」

 戸口に立っている和服美女に気づき、誰何した。
 しかし次の瞬間。

「って、あれれ?」

 いきなりその姿は消え、代わりに廊下に大きな花柄の花瓶が。

「俺は夢でも見てるのか? なんで会社の花瓶がここに」

 しかし驚いたのは藻也だけでなく、花の精たちもそうだった。
 人間に見られても本来の姿に戻るだけなのだ。
 それで姐さんは堂々と人前に出れていたのかと。

 それなら自分たちももっと大胆になっていいのだと考えて。
 花の精たちは一斉に三頭身のアニメキャラ風に擬人化した。

「って、こんどはオマエらか!」

 ユリの精は、当たって砕けるだけよと生来の軽率さでもって先頭に立った。
 ジャスミンの精は、ユリに続いて藻也に抱きついた。
 彼女には、実は好色な一面があったのだ。
 それらを見て、元気を取り戻した金魚草の精が賑やかにはやし立てた。

「こ、これは夢だ。でなきゃこんな」

 夢みたいなことは有り得ない、と矛盾ギリな感想を述べる藻也。
 その間にも、十数体のプニプニが藻也のスエットや下着を脱がし始めた。
 ワーキャーと可愛らしい掛け声とともに。
 加えて花の良い匂いまでも。

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