新婚温泉旅行
新婚夫婦の松岡和彦と春奈は、互いに忙しい仕事の合間を縫ってどうにか新婚旅行に出掛けていた。休暇が取得できた期間が短かったため、近場の高級温泉宿でゆっくりしようという算段だった。休暇のために直前まで仕事を詰め込んだ2人は若い新婚夫婦でありながら数週間もセックスをしておらず、宿に向かう車の中で早くもムラムラしてしまっていた。我慢できなくなった2人はとうとう…
車が山道を走り始めて10分程度が経っていた。運転する松岡和彦は、目的地の温泉旅館に到着する時間をナビでちらりと確認した。
「あと、1時間くらいだよ」
「うん、楽しみー」
助手席に座る妻の春奈に話しかけると、彼女は弾んだ声で答える。
和彦と春奈は入籍したての新婚夫婦である。
大手企業に新卒入社した同期同士で、総合職の苦労を分かち合ううちに恋が芽生えた。
入社2年目で付き合い始めた2人がそれから4年の社内恋愛を経て、入籍を決めたタイミングは親の希望によるところがあった。
真面目で明るく朗らかな和彦と、賢く気がきいて美しい春奈は、互いの親に一発で気に入られた。
2人ともが自分の親から「あんな素敵な人、逃さないように」とせっつかれ、一旦入籍しようということになったのだ。
しかし、入社6年目を迎えた2人はまさに仕事が充実して忙しい時期を迎えてもいたため、ゆっくり新婚生活を満喫するというわけにもいかなかった。
和彦は営業部、春奈は広報部と部署は異なるものの同じ会社にいれば忙しさの度合いはわかる。
2人とも、それぞれの部署で若手のエースとして責任ある仕事を任されるようになった頃合いで、一緒に生活を始めても家で休日を一緒に過ごすということも少なかった。
互いの仕事が忙しく、準備に時間を割くことが難しいため結婚式は簡素に済ませ、新婚旅行を充実したものにする予定ではあった。
しかしその新婚旅行に行くための休暇すら合わせて取ることは難しかった。
「ご飯も、すごい良いらしいよ」
「私も口コミ見たよ、ようやく取れた休暇だもん、今回は贅沢しようね」
「ああ、部屋も奮発したからなあ」
どうにか取れた休暇は3日で、派手に海外へ新婚旅行に行くのは無理になってしまった。
仕事が落ち着いたタイミングにでも海外はとっておいて、今回は近場で宿にお金をかけた旅行をしようということで話は落ち着き、車でドライブがてら行ける温泉地に宿をとることにしたのだった。
この3日の休暇のために、2人は休暇前日までぎゅうぎゅうに仕事を詰め込むことになった。
ここ3週間ほどは「家では眠るだけ」という日々が続いたため、同じ寝室にいても触れ合うことはなかった。
ゆっくり休みたい気持ちはもちろんあるものの、愛する妻と触れ合いたい、繋がりたいという欲求を抑えて仕事に専念した期間は無意識のうちに和彦の身体を焦らし、人気のない山道を走る車内で早くもムラムラし始めていた。
「かずくん、運転ありがとうね」
「いや、全然」
春奈との付き合いがうまく行ってきた要因の1つは、身体の相性がばつぐんに合うことだと和彦は思っていた。
セックス時に得られる満足感ももちろん高いが、セックスがしたくなるタイミングがいつも一致していた点が和彦にとって非常に好もしいポイントだった。
だから自分の感覚に素直になるなら、春奈もきっと今、同じようにムラムラし始めているはずだ。
和彦はそう考えると、今夜は一晩中たっぷり愛し合えると期待が膨らんだ。
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