兄の結婚
10歳年上の兄・冬彦が結婚することになった。都は幼い頃から冬彦に可愛がられており、嬉しい反面、少々切ない気持ちを抱えていた。結婚相手を実家で紹介した夜、都は兄と婚約者が眠る部屋に忍び込み、押し入れに身を潜める。そこで、冬彦がセックスする音を聞いた都は…
登場人物
都(みやこ)・・・主人公 20歳の女子大生 10歳年上の兄に淡い恋心を抱いている。
冬彦(ふゆひこ)・・・30歳 都の兄 温厚で妹想い。
兄が結婚することになったのは、暑くも寒くもない季節だった。
いつものように大学での講義を終えて帰宅すると、母が夕食を作りながら「お兄ちゃんが結婚相手を連れて挨拶に来るんですって」と楽しそうに伝えてきた。
その10日後、私より10歳年上の兄・冬彦が、可愛らしい婚約者を連れて訪れた。
初々しさが全面に出ているような女性で、私よりもほんの少し年上なくらいかと思っていたら、兄の一つ年下だった。
「ええと、都ちゃんっていうのよね。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
私は笑顔を作って挨拶をしたあと、父がお祝いのために購入した刺身の盛り合わせに箸を伸ばす。
タコの刺身は歯ごたえがよく、ご飯が進んだ。
「私、ずっと妹がほしかったの。だから、嬉しい」
「そうなんですか」
私が食べる手を止めずに相槌を打つと、母が「まったくこの子ったら、色気より食い気なんだから。ごめんなさいね」と困ったように笑った。
「都は、本当に昔から変わらないな。よく食べて、よく笑って」
白米を食べながら兄に視線を移すと、兄は微笑んだままビールに口をつけた。
婚約者の女性は酒に弱いのか、既に赤らんだ顔をしながら
「都ちゃんは、兄弟の中でも一番可愛がられたんじゃないですか?」
とふいに訊ねた。
私は四人兄弟の末っ子で、冬彦の他にもっと年上の兄と姉がいる。現在はそれぞれ結婚していて、別々に暮らしていた。
「かなり歳の離れた兄弟だったからね。都が小さい時、上のお兄ちゃんとお姉ちゃんはもう就職とか進学で家にいなかったけど、冬彦はずっと面倒を見てくれていたから、本当に助かったわ」
母が懐かしむように言うと、父もゆっくりと頷いた。
事実、私は兄がいてくれたからこそ、両親が共働きでも寂しさを感じたことなんて一度もなかったのだ。
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