青い薔薇園の管理者に甘い罰を (Page 4)

 男性は嘆息を零し、明穂を抱きかかえて寝室へと運ぶ。

「しばらく痛むと思います。安静にされるのが良いでしょう」

 男性が言う通り、衝撃が去ると腹部が痛み出した。ずっしりと重たい痛みは明穂の経験したことのない類のものだ。息が上手くできないし、なにより動くことすらままならない。

 そのまま明穂は男性の手によって自分のベッドに寝かされる。

 ベッドサイドの照明を点けた男性はベッドから離れ、ドレッサーの椅子に腰を下ろした。

「このような状態では礼を失しているとは思いますが、どうかお聞きください」

 ぼんやりとした人工の灯りの向こうに男性の姿がぼんやりと浮かび上がっている。その様を明穂は横になったまま、首を曲げてなんとか捉えていた。

「私は『ブルー・ローズ』のセラピストを務めております、古賀と申します」

 『ブルー・ローズ』という単語に明穂の心臓が音を立てる。動揺だ。鈴鹿に依頼した情報回収の一件が脳裏にまざまざと甦った。だが、同時に問題なく処理したはずだという確信もある。仮に問題があるとすれば鈴鹿からの情報漏洩だ。頭の軽そうな彼女には、守秘義務すら守れないのかと明穂は奥歯を噛んだ。

「今回、お伺いしたのは会員の個人情報の漏洩に関してです」

「なんのことだか、分かりません」

 明穂は痛みを押して言葉を投げた。

 男性――古賀はどこか憐れむような眼差しを彼女に向ける。

「三枝の現在の行方も我々は把握しています。彼はあなたへの復讐を検討していましたよ」

 もう処理しましたが、と古賀は暗い口調で言った。

 しばしの沈黙が両者の間に堆積する。

「あなたが我々にすぐに情報漏洩を報告していれば、問題はもっと小さく収まっていたはずです」

「私は『ブルー・ローズ』にとって、最善だと思える――」

「いいえ」

 明穂の言葉を遮り、強い口調で古賀は否定を口にした。

「あなたはもっと周囲を信頼すべきだった」

 二人の会話を遮るように電子音が鳴り響いた。ただし、音の出所は寝室ではない。古賀が椅子から立ち上がり、寝室を出て行く。

 大して間を置かず古賀が寝室に戻ってくる。彼は明穂のスマホを持っていた。

「オーナーから、あなたに」

 そう言って彼はディスプレイをタップし、通話状態にして明穂の耳にスマホを当てた。

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