青い薔薇園の管理者に甘い罰を (Page 8)
「承知致しました」
古賀は拘束を解き、性具を回収してベッドの上に明穂を優しく押し倒す。彼の腕の中で体温を感じ、明穂は行為の最中だというのに奇妙に安堵する。
コンドームを装着した古賀の男根がゆっくりと膣に埋まっていく。明穂の体は男の侵入を許し、受け入れていた。
ぐんと最奥を押し上げられる感触に明穂は戦慄く。関係を持ったどの男でも刺激できなかった箇所を責められ、明穂は古賀の首筋に抱き着いた。そうでなければ快楽に押し流されてしまいそうだ。
強く弱く。深く浅く。目まぐるしい快楽の激流に翻弄されながら、明穂はかろうじて意識を飛ばさずにいた。それでも絶頂の大波が近づいてくる予感に震える。
「ああ、くる、くるのっ、ああ、すごい、こんなの知らない。おっきいのくるぅ」
絶頂の瞬間、明穂は全てのしがらみから解放され、快楽に飲み込まれる。
自らの腹部にぶちまけられた精液の熱を感じ、安楽のうちに彼女は意識を途絶えさせた。
そして、次に目を開けた時には外が明るくなっていた。カーテンの向こうから陽光が差し込んでいる。
ぼんやりした頭のまま、ベッドサイドの時計を見るとすでに出社時間になっていた。慌てて飛び起き、スマホを探す。枕元に放り出されていたそれを引っ掴み、会社に電話しようとしたところで、不意に着信があった。
会社からだと思い、明穂は番号の確認もせず電話に出た。
「もしもし。すみません。すぐに家を出ますので」
「その必要はないわ」
「……オーナー……?」
あの不思議な声音は一度聞けば忘れられない。
「しばらく休みを取りなさい。有休が随分溜まっているようだから、ちょうど良いでしょう」
「いや、それは、申請も」
「しておいたわ。手続き。だから休みなさい、これはオーナー命令よ」
くすくすと笑い声を残し、オーナーとの通話はあっけなく終わった。
あまりに現実感がない展開に明穂の思考が止まる。そこへ昨夜と同じくスーツを着こなした古賀が姿を現した。
「よく眠れたようですね。顔色がよろしい」
彼はそう言って明穂にコーヒーを差し出した。
「キッチンを貸して頂きました。整頓されていて使い易いですね」
少しばかり砕けて親密な空気に、明穂は柄にもなくドギマギしてしまう。何も言えずにいると古賀が次の話題を提供してくれた。
「オーナーはなんと?」
「有休を取るようにと」
「それは良かった。昨夜はデトックスもしましたし、羽を伸ばされるといいですよ」
「デトックス?」
「ええ。たくさん声を出して、たくさん汗をかいた。肉体的にも精神的にも良いデトックスになったと思います」
ぽかんと口を開け、明穂は澄ました顔の紳士を見つめる。
彼は一口コーヒーを飲む。つられて明穂もコーヒーを口にした。暖かい苦味が胃へと落ちていく。
明穂は一つ息を吐いた。まともに息をしたのは久しぶりな気がする
「休暇は少々長めになるでしょうから、旅行などいかがですか?」
旅行などもう何年も行っていない。行きたい場所があった気もするが、今は思いつきもしなかった。
「行き先に迷われるようでしたら、私がプランニング致しましょう」
考え込んでいた明穂は、はっと顔を上げる。
「その、古賀さんは、ご予定はどうなっていますか?」
「荷物持ちが必要であれば私が同行致します。一週間程度はご一緒するようにオーナーから仰せつかっております」
なるほどここでもオーナーの掌の上か、と明穂は思う。だが、敵愾心はない。
せっかくのペナルティだ。満喫させてもらおう。
明穂はそんなことを想いながら、再び苦いコーヒーを口にした。
課せられた罰の甘美さを想い、明穂は口元を緩めるのだった。
(了)
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