シガレットキス (Page 5)

 眠気に濁った思考のまま、加藤はぽつんと言葉を吐く。
「不味そうに吸うなよ」
「先生も吸う?」
 のろのろと加藤は煙草を取り出し、口に咥えた。
 火を点けようとする彼の手を小野島が止め、顔を近づけてくる。なすがままに成っていると、二人の煙草の先が触れ合う。

「点かないね、どうしてだろ」
 顔を放した小野島が首を傾げる。
「案外難しんだ、これ」
 疲れた笑みを浮かべ、加藤はライターで煙草に火を点けた。吐き出された紫煙が立ち上がり、活写する光を帯状に染める。

 煙る光の帯をかき乱し、小野島が再び顔を近づけた。煙草二本分よりもさらに近く、お互いの鼻がすれ違う。加藤の乾いた唇の端に煙草を避けて彼女が口付ける。
「ちゃんとキスしたいんだけど」
「やめときな」
「泊めてもらうから、お礼だって」
「俺がそれ以上のことをしたくなったら、困るだろ?」
「それ以上のこと、するつもりなんだけど?」
「しなくていい」
「もうそういう気分だから、あたし」

 小野島は加藤の口から煙草を奪い、テーブルの上にあった灰皿に押し付ける。続いて自分の吸っていた煙草も火を消す。消火された煙草の煙が名残惜しそうに僅かに漂う。

 薄いくせに触れ合うと肉感的な小野島の唇が、加藤の乾いた煙草臭い唇を啄む。お互いに目を閉じることもなく、間近で目を覗き合う。
 ぬるりと口腔内へ侵入してきた小野島の舌には、固い感触がある。ここにもピアスか、と加藤は舌を絡め合いながら思う。
 煙草と血の味が微かにするキスを終え、小野島は加藤から体を放し、ホームシアターの光の中で裸になった。細く痩せた体には女らしい肉付きもあるが、幾つか痣も見受けられる。最新の痣は顔にできるだろうか。

 再び体を寄せてきた小野島は加藤の服をはだけていく。スラックスと下着を引き下ろした彼女は加藤の性器をゆっくりと手で扱き、ピアスの埋まった舌先で刺激する。関係を持った女性達は誰も舌ビアスをしていなかったので、彼女の舌での奉仕は未経験の快感をもたらした。
 人工物の持つ丸みが性器の窪みをなぞる感覚に思わず加藤は腰を浮かせてしまう。その様子に小野島は彼の股の間で可笑しそうに笑った。

「初めて?」
「舌にビアスついている人に舐められるのは」
「童貞かと思った」
「じゃあ、童貞卒業させてくれよ」
「自分が卒業させた生徒に、童貞卒業させるってジョーダンみたい」
「そりゃ冗談だから」
「なにそれ」
 目を細めて笑い、小野島は加藤の上に跨る。

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