不出来な器 (Page 7)
「なんにもねえな」
ようやく彼の口から出たのはそんなことだった。
「そんなことない」
竹彦の口からまろび出た言葉へ手を差し伸べるように、紗智は再び彼の手を取る。今度は強く握られて逃げられない。
「あんたは、陶工になりたいって言った。楠のおじいさんみたいな、いいものを作れる職人になりたいって」
忘れていた。
そんな夢は。
けれど、彼女の言葉はすとんと竹彦の胸の奥底まで落ちていった。
夢だと言ったことは忘れていたけれど、ずっとずっと胸の中に眠っていた想いが叩き起こされるような、そんな乱暴な感触。諦めていたはずなのに、遊びと称して作り続けていた。誰の手にも渡らない器たち。無数の器に満たされた想いが、乱暴な一言で溢れてしまう。
「でも、俺は――」
「あんたの作ったものを、私は私の店で使いたい」
器から溢れ出してしまった想いは、紗智の言葉で瞬く間もなく水位を増して竹彦の胸を満たした。
「無理だ」
「どうして」
紗智の顔がくしゃりと歪み、泣き出しそうな声になる。
「店のこともあるし、じいさんに教えてもらわねえと人が使えるもんはできねえ」
「そっか」
今度こそ千沙は泣き出してしまう。しかし、安堵した表情に竹彦も少しばかり安心した。
「じゃあ、完成したら私の店に卸してよね」
「しょうがねえな」
彼が渋々といった様子でそう言うと、紗智は手の握り方を変える。握手の形になったそれを上下に軽く動かす。
「契約成立ね」
「前金も契約書もなしかよ」
「じゃあ、これでどう?」
紗智は目を閉じ、竹彦と唇を合わせた。軽く触れ合うだけの挨拶のようなキスだった。
「女の武器ってわけか」
「使ったのは生まれて初めてだけどね」
「覚悟はできてんのかよ」
「なにそれ?」
くすくすと笑う紗智の口を竹彦は強引に塞いだ。舌を口内へと侵入させ、愛撫する。舌と舌を絡ませ、戸惑う彼女の体を抱き寄せた。
徐々に体温が上がっていくのを感じる。それは竹彦だけでなく、紗智も同様であった。次第に口の端から甘い声が零れ始める。
竹彦は一旦唇を離して立ち上がり、紗智の体を壁へと押し付けた。今度は唇ではなく、首筋へ口付ける。首筋を啄み、舌を這わせると彼女の体が微かに強張った。強張りを解すように彼は丁寧に体を撫でる。するとくすぐったいのか、ぴくぴくと紗智は体を震わせた。
「嫌か?」
「今更聞く?」
「じゃあ遠慮はいらねえな」
閉じられていた彼女の足の間に自らの足を割り込ませ、ぐりぐりと股間を刺激してやる。
「んっ、んっ」
声を堪えている紗智を見ていると竹彦の中で声を出せてやりたいという願望が大きくなっていく。それは挿入したいという直接的な欲望と張り合うほど大きなものになろうとしていた。
良い話でした。本番シーンに至るまでのストーリーがしっかり描かれていて、話の世界に入り込めました。じわじわ高まっていく二人の感情がリアルに伝わってきて最高です。
まるまる さん 2020年8月4日