触れられない恋 (Page 5)
「すげー、濡れてる」
わざとグチュグチュ水音を立てられると、羞恥で頬が熱くなる。
「あなたって、本当に意地が悪いわよね……くうっ」
悔しいけれど、中で指を曲げられてこねられると腰が揺れてしまう。
「早く……」
井口君が満足そうに微笑む。
「素直にねだると可愛いな」
「うるさいわね……う……」
指がズルリと抜かれる感触に声がもれる。触られてもいない乳首がしこって震えている。
切っ先が沈んできた。
「ああっ!」
いきなり奥まで入り込んできて、衝撃に仰け反る。
「んあっ、あんっ」
たまらない愉悦に、いやいやをするように首を振った。
彼が私の中で果てる……薄膜を隔てた中で。
行為が終わったあと、服を直して私は告げた。
「これでセフレは終わりにしましょうか」
「え? なんで……」
「山崎さんがあなたに告白しようとしてるみたいなの。あなたも山崎さんの事、好きでしょ?」
井口君の目が泳ぐ。
「私、人のものに興味ないの。だからセフレは終わり。写真は消しておくわ、心配しないで」
「……いいのか……?」
「何が? もしかして、終わらせたくないのかしら?」
「何度もしていれば、情くらい移るだろ」
「別に」
井口君が肩をすくめた。
「紗和ってクールっていうか、ドライだよな」
「私の性格についてあれこれ言われたくないわね。セフレじゃなく、ちゃんと付き合えとでも説教するつもりかしら? そういう重いの、私パス」
「……そうか」
どこか寂しそうに聞こえたのは、きっと私の欲目なんだと思う。
ホテルを出ると、雨が降っていた。
「あっ」
風で傘が飛ばされそうになる。井口君が私の手ごと、傘の柄をつかむ。
「大丈夫か?」
「……うん」
手を離して井口君が去っていく。
初めて直に触れた手の甲が熱い。私はそっと手の甲に唇を寄せた。
雨が打つ地面に、涙が紛れて落ちる。傘に当たる雨音が嗚咽をかき消してくれた。
(了)
切ないけど綺麗な終わり方……素敵でした
もちまる さん 2023年8月3日