故郷は君が待つ場所 (Page 3)
子どもの数が減り、祭りの規模も小さくなってきたと町に住む年寄りは言う。だが、賢吾にすれば目が眩むような大きな祭りだ。屋台が並び、人でごった返している。彼が笛を吹いていた祭りはもっと小さく。屋台もなかった。
そんなことを思いながら瑠璃と幾つかの屋台を冷やかし、結局ねだられてたこ焼きを買った。しかし、店の横にあったベンチや祭りの役員が用意した休憩所は満員で、どこにも腰を落ち着けられない。
たったまま食べるしかないかと賢吾は諦めたが、瑠璃が悪戯っぽく彼の耳に囁いた。
「いい場所、知ってるんだ。行こ、先生」
言われるがまま、賢吾は瑠璃の後についていった。
連れていかれたのは町を縦横に走る水路に沿って作られた遊歩道、その途中に幾つか設置されているベンチだった。彼女が選んだベンチは祭りの行き帰りに使われる道からも、祭りの会場からも離れているため、普段はともかく現状は人気がない。
暗い中、二人で冷めかけたたこ焼きを食べる。
二人で平らげたところで瑠璃は渡したばかりのストールの前を掻き合わせた。祭りの熱気から離れると秋が終わり、冬が刻一刻と近づいてきていることが実感できる。
「そろそろ、お祭りに戻る?」
「もうちょっと一緒にいようよ」
不満そうに言う瑠璃を見ていると、自然に賢吾の顔から笑みがこぼれた。
「なに笑ってんの」
「いや、君は変わらないと思ってね。本当に自分に素直だ」
「ほんとに、そう思うの?」
上目遣いに彼女は賢吾を見つめる。
「もちろん。僕も君の素直さは見習おうと思ってるよ」
「そっか……」
瑠璃は、そう呟くと意味ありげに微笑んだ。
「じゃあ、もっと素直になっちゃおうかなぁ」
言うが早いか瑠璃は賢吾に素早く顔を近づけ、唇を触れ合わせる。驚いている彼を尻目に、瑠璃は大胆にも舌を賢吾の口の中へと侵入させた。
しばらく舌を絡め合わせてから、彼女は熱い吐息を残して顔を離す。代わりに瑠璃は彼の手をぎゅっと握る。
「先生ってさぁ、キスとか初めて?」
「……初めてだよ」
「実は、私も」
えへへ、と今更照れ臭そうに瑠璃は笑う。
「ご感想は?」
「たこ焼きのソース味がした」
おどけた調子で問われたので、賢吾も同じように返す。
「ねえ、私は先生……賢吾さんが好き」
「君は、自分に素直だし、欲張りだね」
「そうだよ、知らなかった?」
「もう僕達の付き合いも十年になるのに、知らなかったよ」
「誤魔化さないで。教えて、賢吾さんは私のこと……」
「……僕は君を置いていくことになるよ」
「なにそれ」
「僕の故郷のことは話したことがあったかな?」
「ないよ」
瑠璃は不満そうに答える。
賢吾は暗い水面に目を落として話を始めた。
お互いが繊細に大事に求めあう様に感動…
他の相手でも良いような題材では、気持ち良く読めませんが、益田氏作品は「その人だからこそ」で心に沁みます。男性向けではありますが、女体を大事にしている様も美しいです。
魚月 さん 2020年11月9日