初めてのひと (Page 7)

「あのっ」

 声をかけてもスミレは立ち止まらない。
 さらに頓田は言葉を連ねる。
 
「童貞を捜すのは大変じゃないですか? 僕はそれなりに人脈があります。紹介できるかもしれません」
 
 スミレの足が速度を落とし、ついに止まった。だが、背を向けたままだ。
 
「面白い方ですね。私にそんなことを言った人は、トントンさんが初めてですよ」
「これは……交渉です」
「なるほど、見返りがいると」
「はい。僕が一人童貞を紹介する見返りに――」

 ごくんと唾を呑み込んで、頓田は条件を突きつける。
 
「ま、また会ってください」
「会う?」
「は、はい」

 背中を向けたままの彼女へこくこくと頓田を頷く。
 
「それだけですか?」
「はい。……だめでしょうか」

 くすくす、と微かに笑いながらスミレが頓田を振り返った。目尻の下がった穏やかな笑みが彼女の顔にある。
 
「本当に面白い人」

 スミレが再び頓田に歩み寄ってくる。
 
「いいですよ。トントンさんが私に女性経験のない男性を一人紹介してくれる度に、会いましょう」
「あ、ありがとうございます」
「それから、ご褒美も。ね?」

 繊手を伸ばしてスミレは頓田の股間に触れた。かりかりと先端をズボン越しに引っ掻いて刺激してくる。
 
「期待してますよ?」

 そう言ったスミレは身を寄せ、彼の耳孔に舌を突き入れた。
 
「ひいっ」

 未知の感覚に思わず頓田が悲鳴を上げると、スミレは声を上げて愉快そうに笑うのだった。

(了)

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