花陰に果実 (Page 2)
廊下に出るといつの間に移動したのか、奥から高尾が彼女を手招きする。
「なに?」
呼ばれるまま廊下を進み、高尾がいる部屋を覗いた。
澱んだ空気に強烈な芳香がべっとりと纏まり付いている。マスク越しにも強烈なその臭いに御岳は顔をしかめた。
部屋の中には大量の花が敷き詰められている。花弁の多くには茎が付いており、誰かが野外で摘んできたものだと滑らかではない断面から知れた。
そして、その中央に一人の女が横たわっている。
ウエディングドレスを身に纏い、胸の上で手を組んでいた。白いベールに隠されており、顔は見えない。
細かな刺繍が施されたドレスは、かなり上等なものだと一見して分かる。
ちらりと御岳が横目で高尾を見た。
彼はぼんやりとした顔でウエディングドレスの女を見ている。
「高尾、後は任せていい? あたしは他を見てくるから」
「えっ、そんな。御岳さん」
高尾の声を無視し、御岳は余所へ行ってしまう。
仕方なく高尾は、そろそろとした足取りで横たわっている女に近づく。傍らに跪き、ベール越しにそっと顔を覗き見た。
可憐な顔立ちの女であった。
ベール越しで微かに輪郭をぼかしてはいるが、目鼻立ちは美しく整い、静かに眠る様子は童話の姫君さながらである。
次いでドレスに覆われた肢体に目が行く。
身体の線に沿うようにして誂えられたドレスは、流麗な曲線を描いていた。それでいて柔らかな膨らみははっきりと主張され、均整の取れた美しさが漂っている。
そぅっと高尾は袖口の繊細な刺繍に指を這わせた。
これだけのものを誂えるのは大層金がかかったろうな、と俗なことを考えてしまう。
長いスカートの裾からはストッキングに包まれた足先だけが見えている。
「どうしたものかな」
ぽつんと口の中で高尾は呟き、またしてもそろそろと手を動かして、女の顔を覆っているベールを持ち上げた。
薄桃色の紅を引かれた形の良い唇が露わになり、白い頬が露わになり、射干玉色の睫に彩られた目はぴったりと閉じられ、目覚める気配はない。
ふと、高尾は女左目の下に泣き黒子があることに気付いた。
何の気なしに指先で触れる。同じ位置の御岳にも黒子があるな、と思い出したが故の所作だった。
しかし、それが契機になったのか、女がゆっくりと瞼を持ち上げる。
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