秘密の秘口

・作

大学を卒業してから初めて開かれた同窓会の場で、佑都は20年ぶりに実夏と再会する。二人は学生時代、交際していたわけではないが、互いに惹かれていた時期があった。学生の頃と変わらぬ実夏の美貌を目にして、佑都は過去の記憶が呼び起こされて…

登場人物

佑都(ゆうと) 42歳 大学生だった頃、実夏と関係を持っていた
実夏(みなつ) 42歳 学生時代から絶世の美女として話題だった 現在は夫と死別している

卒業した大学の同窓会が初めて開催されるとハガキが届いたのは、まだ寒い時期だった。
これといって会いたい人物もいなかったが、断る理由もなかったため、参加することにした。
この時点では、まさか彼女に再会できると思ってもいなかった…。

同窓会当日、会場となっているホテルに足を踏み入れると、すでに大勢の元同級生が集まっていた。
卒業したのが成人してからだったためか、四十路を超えてもそこまで顔が大幅に変わった者はおらず、どちらかというと体型や毛髪の変化の方が凄いくらいだった。

「佑都くん、変わらないわね」

と声をかけてきた女性のことは一瞬思い出せなかったが、学生時代に一番痩せてモデル体型だった子だと思い出す。結婚して出産してからは、当時の体重の3人分になってしまったと笑いながら語っていた。
一方で自分はといえば、40歳を過ぎても結婚もせず、子供もいない。
既婚者の女性グループは「35歳を過ぎたら急激に痩せなくなった」という話題で盛り上がり、男性グループは抜け毛か給与の話題に終始していた。
話す内容は変わっても、全員が当時と変わらぬ口調に思わず安心する。
酒の量も増え始めた頃、先ほどの体型が変わった女性が話しかけにきた。

「ねぇ佑都くん、悪いんだど、ちょっと実夏に話しかけてくれないかしら?」

「実…夏?」

「やだ、忘れちゃったの?佑都くんと実夏、いつも同じような本を読んで仲良くしていたじゃない」

彼女に言われて視線を彷徨わせると、カクテルを片手に同級生たちと笑顔で話し込む実夏がいた。
その瞬間、脳がスパークしたように、当時の記憶が呼び覚まされた。

大学生の時、実夏は同級生の中で誰よりもおとなしく、そして、美しかった。
僕とは好んで読む本が似ており、いつしか2人で過ごす時間が増えた。

だけど、僕は一度だって彼女と一つに繋がったことがない。
何故ならば、彼女は「結婚する人しか、私の中に入ってはいけないから」といつも言っていた。

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