一人と独り

・作

渡り鳥のように各地を放浪している暁彦(あきひこ)。彼は未亡人・環(たまき)との短い交流の中で初めて去り難いという感情を抱いていた。一人遺された未亡人と独りで生きる渡り鳥は、その孤独を埋め合う。

 店先を箒で掃いていた暁彦(あきひこ)は、ふと顔を上げた。
 記憶の底を引っ掻かれるような、そんな感覚を得たからだ。しかし、その奇妙な感覚は形を得ることもなく、再び記憶の底へと沈み込んでいった。
 暁彦はぼんやりと視線をうろつかせる。
 
今しがた掃き清めたばかりの地面から、民家の塀に囲われた狭い路地へ。そして塀の上から顔を出す隣家の植木へ。植木は新芽が僅かに綻び、柔らかなその先端を曇り空へ伸ばそうとしている。

「暁彦君」
 曖昧な空模様を眺めていた暁彦は背後から声をかけられた。首を巡らせ、彼は声のした方を見る。柔和な顔立ちの女性が路地の入口から歩み寄ってくるところだった。

「おはようございます。環(たまき)さん」
「おはよう」
 環は挨拶をしてから暁彦が見ていた隣家へと目を向ける。
「何かあった?」
「いえ、別に」

 言葉少なに応答し、暁彦は腰をかがめた。足元に掃き集めたごみをちり取りに入れていく。

「あれ、木蓮よ」
「もくれんって、何ですか?」

 ごみに視線を落としたまま、暁彦は訊ねた。

「木の名前。もう少ししたら花が咲くわ」
「掃除が大変そうですね」
「そうかもね」

 暁彦の答えに少しだけ笑い、環はちり取りに彼がごみを集めるのを待ってから肩を並べて歩き出した。
 二人が向かうのは二階建ての小ぢんまりとした民家を改築したカフェである。土間に客席とキッチンを設置し、二階は倉庫やストックルーム、事務所だ。

 店先には、まだ看板も出していない。開店前の少しばかりの静寂が店内には満ちている。
 二人はそれぞれ紺色のエプロンを身に着け、開店に向けて手際良く準備を進めた。そして、予定通り開店時間を迎える。

 開店してからの時間は、準備をしている時よりもかえって遅く進んでいた。客足は鈍く、来るのは知った顔の常連ばかりだ。商売っ気がないというよりも、まともに稼ごうという運営ではない。

 それを暁彦は半年ばかり働いて理解していた。

 豪勢な暇潰しのようなカフェの経営は、赤字でこそないが黒字でもない。それなのに経営者でもある環は、慌てる様子もないのだ。
 とはいえ、働いた分の対価はしっかりと手に入るのだから、暁彦に文句はなかった。

 代り映えのしない一日が終わり、店仕舞いを終えると、環は暁彦に売り上げの一部を手渡す。日当だ。銀行口座すら持たない暁彦は、こうやって賃金を環から受け取っている。
 受け取った紙幣を数え、暁彦は目標金額に達したことを悟った。

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