保険外交員の淫悦契約
「こんなオプションもあるのか」
板垣(いたがき)はスマホで会員ページを読みながら感嘆する。
彼がいるのは都内にある賃貸マンションの一室。都内とはいえ、少々交通の便も悪く、周辺に娯楽施設や商業施設も殆どないため、家賃は都内としては安価な部類だ。
そこそこの会社で、そこそこの仕事を日々こなしている板垣にとって、住み慣れた我が家である。
彼がスマホの画面をじっくりと眺めていると、インターホンが掠れた音で鳴った。
板垣は座っていたベッドから立ち上がり、玄関へと向かう。覗き穴から魚眼レンズ越しに外界を確認すると、玄関前にスーツの女性が立っている。首から顔写真入りの社名と氏名の入ったカードをぶら下げていた。
××生命という名前を読み取った板垣は、玄関を開錠して外へ顔を出す。
「あ、どうも。××生命の韮島(にらしま)です」
そう言いつつ、女性は名刺を差し出す。名刺には社命と韮島佑貴子(ゆきこ)という氏名、そして連絡先など幾つかの情報が記されていた。
にっこりと笑みを作った佑貴子は、かなりの美人だ。造作は当然ながら、目鼻などの各パーツの配置が絶妙で、爽やかな表情がよく似合っている。また、上等そうなスーツは、板垣が普段から来ているものとは文字通り桁違いの代物だ。そんなスーツを嫌味なく着こなし、タイトスカートから伸びた足からは女性らしい円やかな曲線も健康的に見て取れる。
彼の人生において、出会ったことすらない美女だ。
「……どうも、板垣です」
こんな美人なのか、と板垣はやや気押されながらもドアをそっと開ける。
招かれた佑貴子は人懐っこい笑みを浮かべたまま、するりと猫のようなしなやかさで玄関の内側へと入り込んだ。
「失礼します」
佑貴子は一言告げてからパンプスを脱ぎ、膝を突いてそれを揃える。
板垣は背を向けた佑貴子の背中から尻にかけてのラインを思わず凝視した。すっきりした背には余分な脂肪がついているようには見えない。タイトスカートに包まれた尻も大き過ぎず小さ過ぎない。
彼女が立ち上がろうとする気配に、板垣は慌てて視線を逸らす。
佑貴子を背後に引き連れ、板垣はキッチンへと向かう。来客を迎えられるような場所が他にないからだ。キッチンにはテーブルが一つあり、幸いなことに椅子は二脚ある。
佑貴子を先に座らせ、板垣も対面する形で腰を下ろす。
にこにこ笑ったまま佑貴子は、これまた上等そうなビジネスバッグから冊子を何冊か取り出した。
「板垣さんは今年で弊社にてご契約頂いている保険が満期となります」
「はぁ」
板垣は気のない返事を返す。
一方の佑貴子は冊子を手際よく広げ、中身を彼に向ける。
「現在はがん、事故、各種疾病の入院、治療に対応した保険などをご契約頂いていますね」
「そうですね。掛け捨てじゃなかったはずですけど」
「しっかり把握されていますね」
「それで、今回は満期になる保険の案内だって聞いてますけど」
「そちらのご説明も、もちろんさせて頂きます」
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