保険外交員の淫悦契約 (Page 2)
それから佑貴子は現在の保険の満了日や満了保険金についてなど、手際良く板垣に説明した。その内容の詳しさに少々板垣が驚いている内に説明が終わり、佑貴子は彼に説明に使っていた冊子を資料として手渡した。
そして、笑みを崩さぬまま、新たな冊子をテーブルの上へ並べる。
「よろしければ、満了後のご契約も弊社をご利用頂けませんか?」
「あー……」
「保険も金融商品ですので、時代と共に変化しますし、なによりご契約者様のライフスタイルや年齢の変化に伴って、当然ですがリスクも変動します」
「はぁ」
「そういったご契約者様の常に変化し続けるリスクやご不安に寄り添えるのは、やはり長年ご利用頂き、ご要望やデータなどをしっかりと保有している弊社だと、自信を持って申し上げることができます」
乗り気ではない板垣に対し、一気に佑貴子が捲し立てる。この営業トークが有効な相手だと思われているのだ。押せば簡単に折れると。
「すいませんが、勤め先が懇意にしている保険会社さんに変えることになっているので」
「……どういった内容のご契約か差し支えなければ教えて頂けますと、弊社としてもよりよいご提案をさせて頂けるのですが」
「流石に契約内容までは、ちょっと……」
保険の種類程度の内容は伝えても問題ないが、板垣は渋った。やり取りが面倒になってきていたのだ。
「弊社はご利用頂けませんか?」
「付き合いもありますから」
「どうしても?」
妙に砕けた口調で佑貴子は再び問う。
それに対して微かに顔をしかめつつ、ゆっくりと板垣は頷いた。
不意に佑貴子が笑みを深める。先程までの爽やかな笑顔とは違う。引き込まれそうな妖しい笑みだ。深く澄んだ冷たい湖のような美しさがある。
彼女は席を立つと、テーブルを回り込んで板垣の傍へ立つ。板垣が黙って見ていると佑貴子は染み一つない手を彼の喉元へ伸ばした。ぎょっとした彼が身を引くが、佑貴子は襟首を掴み、顔を急接近させる。
「んっ」
微かに吐息を零し、佑貴子は鮮やかな朱色の唇を板垣の少々荒れた唇と重ねた。それだけでは飽き足らず、彼女は舌を伸ばして板垣の口腔へと侵入を果たす。その感触は板垣が今まで女性と交わしてきたキスは、おままごとめいたお遊びだったと言わんばかりのものだった。佑貴子の舌は触手の如くうねり、板垣の口の中を快感で一杯にする。
気づけば板垣は自ら積極的に舌を絡め、佑貴子を逃がさぬように振舞っていた。舌だけではなく、手を伸ばして佑貴子の腰を掴み力任せに指を食い込ませている。
「どうですか? 弊社でのご契約をご検討して頂けませんでしょうか」
唾液の糸を引きながら唇を離した佑貴子が言い放つ。そして、さりげなく板垣の手を腰から放す。
「……無理ですね。おたくの保険は高いから」
「どうすれば、お気に召すでしょうか」
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