星が見たい

・作

ひろが彼女のみのりと濃厚な一晩を過ごした翌朝、みのりが「星を見たい」と言い出した。朝になったばかりだというのに星が見たいという彼女の真意を測りかねず、ひろはみのりと昼間のプラネタリウムへ向かう。しかしみのりは不機嫌になるだけだった。途方に暮れてしまったひろはプラネタリウムの暗闇の中で、彼女との淫猥な一晩を思い出していた―――

「ね、ひろ君。星が見たい」

 うとうとしていた俺の頭の中で、みのりの甘い声が響いた。
 彼女の匂いがふわりと鼻をくすぐり、温かく心地よい重さが蘇ってくる。
 細くて長い髪がサラサラと胸を撫でて流れた。

「え? いま?」

「うん。いまからいっぱい見せて」

「いまかあ……」

 俺の胸に頬を寄せてくれる彼女の頭をそっと撫でて、ため息混じりに呟く。

「ん……」

 彼女がぶるりと震えて顔を上げると、すぐ目の前に黒い大きな瞳が現れた。
 潤んだ瞳に陽の光がキラキラと反射して、俺に綺麗な星を見せてくれているようだ。
 俺はハッとして、身体を起こした。

「あん」

 可愛らしい声と柔らかい身体に後ろ髪を引かれつつも、ベッドから抜けだしてシャワーへと向かう。

「じゃあ、行こうか。今日はいい天気だし、久々にデートしよう」

「デート? 星は?」

「もちろん、そのために行くんだよ」

*****

 
『この北斗七星の星は、春の星座を探すのにとてもいい目印になり』

 座席の背もたれが倒れてほぼ横になった状態で眺める星々を、解説員の優しい声が説明してくれている。
 周りは真っ暗で、隣で同じように星を見上げているはずのみのりの姿も、シルエットがかろうじて見えるくらいで表情までは分からない。
 でも、まだ不機嫌なままなのは、僅かに触れる肩の緊張した雰囲気が伝えてくれていた。
 星が見たいと言うからプラネタリウムに来たというのに、なにか間違ったんだろうか?

「……みのり、まだ怒ってる」

「もういい。静かに」

「怒ってるじゃん。なんか違った?」

「静かにして。周りの人に迷惑でしょ。……もういいの」

「……ごめん」

 俺は意味も分からず謝って、満天の星に目を戻した。

『……のおおぐま座の尻尾が長いのは、ゼウスが空に投げたときに……』

 解説員の慣れた感じの解説が淡々と続く中、瞼が自然と落ちてきた。
 昨日は何時に寝たんだっけ?
 彼女の細い指が俺の手に触れ、そっと指を絡ませてくる。

「……みのり?」

 彼女の甘い匂いとサラサラの髪、滑らかな肌の手触りと艶めかしい声が脳裏に蘇る。

*****

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