ご注文は花の罰ですか? それなんですか? 襲っちゃっていいですか? (Page 2)
『あ、あの人帰るようですよ』
花瓶の精の追及が逸れたことに安心した金魚草の精が、元気に話しかける。
『え、本当に帰ってしまうの……?』
手荷物をまとめ、一言も発さずにドアを開け部屋から出た藻也。
外から施錠する音が聞こえた。
『なんでよ……』
花瓶の精は二つの意味での疑問を口にしながら、擬人化して窓際に行く。
そして外の様子を確認して。
『あいつの後をつけるわよ、一緒にいらっしゃい』
『つけるって、外に出るんですか? 人目につきますよ??』
花の精にとって、擬人化した状態を人間に見られるのは禁忌。
だから彼女の逡巡も当然だったのだが。
『それは気にしなくていいようよ』
そう言って、ゴミ箱の金魚草から花びらを一枚だけとって留袖に入れた。
………………
『ホントに人がいない』
会社があるビルから出た花瓶の精。
その袖から現れた金魚草の精が、花瓶の精の頭の横辺りを浮かびながら。
『こんなのはじめて……』
思わずといった感じで漏らした花の精の感想。
それは花瓶の精も全く同感だった。
そこはオフィス街で、年末年始に人出が無くなる事はあった。
しかし、こんな平日の明るい時間にこんな無人な状況は無かった。
しかもクルマの一台も走ってないなどとは。
『しっ、あの角を曲がるようよ』
充分離れているので聞こえる筈はないのだが。
花瓶の精は口元に人差し指を当てて、花の精を黙らせた。
そして藻也の後をつけて行く。
よく晴れた青空、しかし建物や道路は地味な灰色やグレー。
藻也の服は風景に溶け込む地味な紺色のスーツ。
それを追いかける紅白ベースの、派手な花柄の着物。
傍目にはもの凄く目立っていたのだが。
不気味なほどに静まり返る街中で、それを見咎める者は居なかった。
………………
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