純情な愛人

・作

職場ではそれなりの地位を築いた達弘も家庭の中では思春期の娘に邪魔者扱いされ、寂しい日常を送っていた。そんな達弘にとっての心の拠り所は愛人として家を与えている由紀であった。心の拠り所のない中年の達弘に寄り添うように由紀は今日も達弘を受け入れる。

今年で50を迎える達弘が、濡れた短髪をタオルで拭きながらリビングの扉を開けると、そこには可愛い動物のぬいぐるみ達に囲まれ、プリンを幸せそうに口いっぱいに頬張る由紀の姿があった。

ぱっちりと開いた目でプリンを見つめ、折れそうなほどに細い指でスプーンを握り、小さな口にプリンを運ぶ由紀の様子は、周りの可愛いぬいぐるみ達と相まって、達弘におとぎ話のワンシーンを見ているような気持ちにさせた。

達弘はそのメルヘンチックな光景を目にし思わず頬を緩めた。

「買ってきたプリンは美味しいかい?」

達弘が尋ねると由紀は首をこくりと縦に振り頷いた。すると由紀は手を止め達弘を見つめた。

「…………」

「どうしたんだい?」

達弘は由紀の様子に見兼ねて声をかけた。

「最近、よく遊びにきてくれるけどお家は大丈夫なの?」

「あぁ、そんなことか。今、家では娘の高校受験と反抗期が重なって俺の居場所がないんだ。父親の役割なんて所詮お金を稼いで家に入れることくらいしかないからね。それともこう何日も遊びに来たら迷惑だったかな?」

達弘がそう尋ねると由紀は首を横に一生懸命振った。

「うんうん、そんなことない。大体ここは達弘さんが借りてくれてる家だし、それに私は達弘さんが遊びに来てくれて嬉しい」

由紀はにんまりとした笑みを浮かべた。

「嬉しいこと言ってくれるね」

達弘が嬉しそうに由紀の頭に手を伸ばした。達弘の手は小さな由紀の顔を揺らしながら動いた。頭を撫でられた由紀も嬉しそうに達弘を見つめていた。

「達弘さん。後ろに座ってほしい、達弘さんに抱っこしてほしい」

「いいよ、任せて」

達弘は由紀の後ろに腰を下ろした。すると由紀はゆっくりと体重を達弘に預けた。

「達弘さんに抱っこされるの気持ちいい」

「そうかそうか」

「ねぇ、達弘さん」

由紀は達弘の胸元から首を傾げて達弘に顔を向けた。

「どうした?」

「あのね、もう家賃の援助はしなくていいよ、私もOLとしてお給料もらえてるから。達弘さんの生活に迷惑をかけたくない」

達弘は由紀の真剣な顔を見て感慨深い表情を浮かべた。

「高校を卒業して入社した会社が潰れてネットカフェ難民になっていた女の子が成長したな……そりゃ、2年も経てば成長するか……」

「達弘さんのおかげだよ、本当に感謝してる。でも、そろそろ一人立ちしようかなって。あ、もちろん達弘さんはいつでも遊びに来ていいからね」

達弘は由紀を抱きしめた。

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