籠の鳥は、いつ出やる (Page 4)
全て躾通りだ。
性欲と支配欲を満たされ、邦彦は満足して頷く。ご褒美として彼は紘奈の頭を撫で、もう片手で彼女の舌を愛撫してやる。
ベッドではそんな彼の息子がチューブに繋がり、目覚める気配もなく横たわっていた。
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病院からの帰り道で、ふと紘奈は足を止めた。
振り返って病院を仰ぎ見た彼女の頭上を鳥の群が飛び去って行く。群青を背景に黒々とした塊の残像が微かな線を引いては紘奈の視界の外へ消えて行った。
彼女が住む街には幾つもの小さな森が残っている。それは雨上がり水溜りのように街のあちこちに点在し、そのいずれかに飛び去った鳥達の寝床があるのだろう。
かつての紘奈の居場所もそんな小さな森だった。
さらにそれ以前は部屋の隅で、じっと本を読み耽るばかりだった。閉じ籠った部屋の片隅で、空想の扉を開いて自由なつもりだったのである。
森の片隅を新たな居場所とできたのは、活発な健太との出会いがきっかけだった。だが、今は皮肉なことに彼の方が病室から出るどころか、ベッドから起き上がることもない。
見上げる病院は愛想のない表情のまま、次第に夕闇へと身を沈めていく。
振り切るように紘奈は帰り道へ向き直り、再び歩き出した。
「健太君、早く目を覚まして」
彼女の呟きは誰に聞き止められることもなく、夜道に落ちて初夏の風に吹き散らされた。
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「お邪魔します」
告げて靴を脱いだ紘奈は、上がり框へ屈んで靴を揃えた。
その後ろ姿を見て邦彦は背中から尻へかけてのラインに視線を這わせてしまう。しばらく仕事で忙しく、彼女の体を味わっていない。そのせいか、妙に彼女の後姿に艶を感じた。
「先に健太君の部屋に行ってもいいですか?」
「もちろん」
快く了承し、邦彦は廊下を歩いていく紘奈を見送る。
息子の健太が事故で昏睡状態となって、十年近くが経過していた。その間、ずっと彼女は息子のために板書したノートの写しを作り、健気に病室へ日参している。紘奈のその献身的な振る舞いは祈りの所作のようでもあり、同時に健太への贖罪のような一途さもあった。
健太が目覚めるという希望を妄信している少女を、邦彦は抱いている。
背徳感がこの上ない快感をもたらすのだと、以前は知らなかった。だが、一度味わってしまえば逃れられない。
廊下を曲がって紘奈の姿が消えるまで、邦彦はじっと彼女を見つめた。足を動かすたびに揺れる尻肉。背後から組み伏せ、尻を鷲掴みにして腰を打ち付ける様を想像し、股間を固くしてしまう。
荒くなる息を意識して鎮め、慌てるなと邦彦は自分に言い聞かせる。
だが、彼の意思を離れたかのように足は動いて紘奈の後を追っていた。
ゾクゾクする
エロくて怖くて哀しくて…最高でした。
ま さん 2023年12月24日