籠の鳥は、いつ出やる (Page 8)
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二人並んで歩く。たったそれだけのことが不思議に思えた。
特に、それが自分の息子が事故に遭った公園であれば猶更に。
隣を歩く紘奈は俯き気味にとぼとぼと歩いている。やはり、彼女も思うところがあるのだ。
公園自体は非常に小さく、周囲を生垣やコンクリートブロックの塀で囲われた小さな空間に過ぎない。むしろ、公園を包み込むように存在している森の方が大きい。
遊具どころかベンチすらない、そんな囲われただけの小さな空間だ。やはり人気がないらしく、子供の姿も散歩中の高齢者すら見当たらなかった。
出入口は二つあり、一方は道路から入れる生垣の切れ目で、もう一方は傾斜のきつい下り階段になっている。
もう何度も訪れた場所だ。
邦彦の息子である健太は、あの急な階段から転落し、負傷が原因で昏睡状態に陥った。だから妻だけでなく、警察や市の職員とも幾度となく来ている。
息子が転落した階段を公園から見下ろすと、なかなかの高度感があったことを邦彦は覚えていた。落ちたら無事では済まない、ということは直感的に分かる高さだった。
公園の真ん中あたりで立ち止まり、邦彦はぼんやりと階段の先を眺める。
隣では紘奈が彼と同じ方向を見ていた。しかし、彼女の眼差しに含まれているのは、邦彦のような諦念が混じったものではない。もっと別の何かだ。
二人揃って公園の一方を見たまま、黙して時間が過ぎていく。
森に囲まれて元々暗い公園は周囲よりも一足早く宵闇に沈む。だからなのか、隣にいる紘奈の表情がやけに遠く感じた。
「紘奈ちゃん。そろそろ行こうか」
あまり遅くなると、彼女の親に怪しまれるかもしれない。そう考え、邦彦は強引に口を開いた。口の中の唾液が粘つき、嫌な感触が言葉を吐いた口の中に残っている。
「私のせいかもしれないんです」
「何が?」
動こうとしない紘奈に感じる苛立ちを押し隠し、邦彦は訊ねた。
「健太君の目が覚めないの」
「……紘奈ちゃんは、関係ないよ」
紘奈の懺悔になど興味がなかったが、邦彦は当たり障りのない返答を選ぶ。
子供の我儘にいつまでも付き合ってはいられない。彼は紘奈に一歩だけ近寄り、肩に手を置いた。
「さあ、帰ろう。親御さんも心配するよ」
「この公園は」
邦彦の言葉を無視し、彼女は語り始める。
「私の隠れ場所だったんです。学校でいじめられていて、家にも帰りたくなくて……」
「そう、……辛かったね」
うんざりした気分で上辺だけ取り繕った邦彦は猫なで声を出す。
「あの日、健太君が事故に遭った日。私はここにいたんです。誰かの足音がして、怖くて隠れて……、あっちから遠回りをして家に帰ったんです」
怯えた目で紘奈は二人で入って来た公園の入り口を示した。
ゾクゾクする
エロくて怖くて哀しくて…最高でした。
ま さん 2023年12月24日