鴨の味 (Page 2)

「デブったな、お前」

披露宴の終盤、何年もやり取りしていなかったメッセージアプリで龍二からのメッセージが届いた。

「は?」

ほとんど反射的に、穂波は返信していた。

「嘘だよ、めちゃくちゃエロい身体になった」

それを読んで、かっと自分の顔に血がのぼったのがわかる。
穂波が思わず龍二の方を見ると、龍二もこちらを見ていた。
にやりと笑った龍二から立て続けにメッセージが届く。

「8階、806号室」

「今夜、待ってる」

龍二から誘われて、穂波が断れたことは今まで一度もない。
しかし結婚してから龍二と会うこともなくなっていたので、これまで間違いが起こったことはなかった。
自分の平穏な生活にも、夫や子どもに対しても不満があるわけではないが、穂波は龍二に会ってしまえばこうなることを、どこかで察していたのだと思った。

8階でエレベーターを降りた穂波は、ひとつ深呼吸をした。
胸がぎゅっと締め付けられるように苦しいのは、万が一にも誰かに見られることがないようにと緊張しているからだ。
今夜、このホテルに龍二が宿泊していることは、穂波の親や叔父、つまり龍二の親も知っている。
何より新郎新婦の2人も今日はこのホテルに宿泊するはずだ。
披露宴がお開きになってからしっかり時間を空けてこのホテルに戻ってきた穂波だったが、それでも不安はあった。

「着いた、部屋の前」

指定された部屋のドアの前に着いた穂波がメッセージアプリで龍二にそう送ると、少し間があいてドアが開いた。

「…来ると思った」

にやりと笑った龍二を見て、悔しいのに眩暈がするほど身体が期待し始めているのを穂波は自覚した。
バスローブ姿の龍二は穂波を部屋に招き入れると、すぐに穂波の腰に腕を回した。
そのねちっこい触り方を、穂波ははっきりと覚えている。
浅黒く焼けた肌、肉体労働で身についた筋肉、ギラついた大きな目とやや乱暴な口調。
それなのに妙にゆったりとした手つきで何度も何度も穂波を絶頂させたこの男を、穂波が振り切れるはずはないのだった。

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