感染型・共感症候群 (Page 2)
(ふーっ。)
お目当ての席に着いたことでやっとひと息つける。
座席は左右に5列ほど。シートはふかふかで足を組んでも隣の人間に当たらない程度にスペースが取られている。
前後の空間も中央の席に比べれば人一人が余裕で通れるくらいの間隔が開いている。
映画館のサイドの席というのは少しスクリーンに向かって角度が付いている。
その為、座席を斜めにするための幅が必要になってくるのだ。
多少角度を変えたからと言って、この席はスクリーンが斜めに見えるハズレの席と思うかもしれない。
せっかくのステレオ音声も、頭上にあるスピーカーの音だけがやたらと大きく聞こえるかもしれない。
(だがそれが良い。)
綺麗さだけではない、少し泥臭い演出が古い映画の良い部分であり、この席で得られる不便さが私を映画の登場人物に引き込ませてくれるのだ。
(とはいえ、本当に好きな作品ならば真正面の最高の映像とサウンドで聞きたいが…。)
名作とはいえ、毎日違うジャンルの作品を放映しているのだから、中には私の好みではない作品も勿論ある。
当たり外れが激しいのも名作たる所以…先週観た過去最低評価のSF映画もその名に恥じぬ駄作だった。
(あれに金を払って観る人間の感性を疑うよ。まあ、あまりの酷さに眠気も吹き飛んだんだから…。)
スマートフォンの電源を切る前に、今日の上映作品をホームページで確認する。
(今日の作品は…名前だけは聞いたことあるな。確か男女の吸血鬼がお互いに人間のフリをして不倫をする話だったかな?なるほど、だから女性の姿が多いのか。)
元々恋愛映画を殆ど見ない私には、あらすじからして面白いかどうかがわからない。
ただ、いつもと違うシアター内の雰囲気に、この映画が女性に人気のある映画だというのは分かる。
(もっと若ければ私も恋愛映画のようなシチュエーションに出会えたのだろうか…。)
この映画館にも、女性と2人で足を運び、泣いたり笑ったりしていたのかもしれない。
そうこうしているうちに、シアター内の灯りが落ち、スクリーンに注意事項と共に最新映画の予告編が流れ始める。
私を入れても10人に満たない人数でこれから名作映画の世界へと旅立つのだ。
そう考えると作品の好き嫌いなど取るに足らない理由なのだろう。
知らない他人と会話をせずに、この空間を共有感覚のみで過ごす時間が、堪らなく心地良いというだけなのかもしれない。
私は少し深めに椅子に座り直し、隣に座るまだ見ぬ意中の女性を想像しながら流れてくる名作へと没頭していく。
―――――
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