感染型・共感症候群 (Page 3)
「…ん…んん…。」
(?……寝てしまったのか。)
始まって数十分くらいか…女同士のイザコザが続く冒頭のシーンで、私の意識は遠くへ飛んでいたらしい。
目を開けようとしたとき、誰もいなかった筈の自分の隣に他人の気配を感じた。
「あ…んんっ!」
スピーカーから聞こえる女優の声かと思ったが、もっと近い。
か細いが苦しんでいるような声…私は居眠りをした体勢のまま薄っすらと横目で声の主を見る。
「あっ…はぁんんん…んっ!」
見知らぬ女性が私の左隣で大きく開いた脚の間から覗く下着の中に手を入れ自慰に耽っている…。
「はっ…!?」
思わず声を上げそうになるが…どういうわけか私は寝たふりを続けてしまう。
暗がりなので顔はよく見えないが、私がこの席に座ったときはいなかった。
上映中にシアターの中に入ってきたのか、それとも少ない客の中をこの席に移動してきたのか。
声だけなら大分若い…と思う。確認しようにも気が付かれたらどうしようという恐怖に目が開けられないのだ。
耳だけに感覚を集中させているとある事に気づく…。
スピーカーから聞こえる声と、女の声がシンクロしているのだ。
女の方を見ないように、薄っすら目を開けてそこに見えるスクリーンには、不倫相手との関係を想像し、一人で思いに耽る淫らなシーンが流れている。
この映画の見所である要所に描かれるセックスシーン。
まるでピンク映画の様な肉欲に溺れたこの作品はそんな女優の演技が高く評価されているのだ。
目を開けられない状況の中での、スピーカーから流れる声と隣から聞こえる声の二重奏に頭の中が揺さぶられる。
「あっ…あっ…ああっ!あっ!あっ!あっ!」
声の間隔が短くなる…もしかして絶頂が近いのだろうか。
薄暗い光の中で、女の右手は女性器を一心不乱に責め続けている。
声を出さないようにしているとはいえ、もし少しでも他の観客にこちらを見られたら…。
「あああっっ!!」
小さな叫び声と共に、開いた脚が閉じられ前屈みに女が小さくなる…プルプルと震える女の背中は、絶頂を迎えた証拠だ。
(…あとは映画が終わるまで寝たふりをしてやり過ごそう。)
突然、私の隣に現れた事は気になるが、これ以上関わっても良いことは無いだろうという判断である。
このまま女が他の席に移動すればいいし、映画が終わるまで隣に居座るにしても、私が女の行為を見ていないフリをすれば、何事も無かった事にできる筈だ。
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