感染型・共感症候群 (Page 6)

 ビュルビュルビュルルル!!

 耐え切れずに私の精液が見知らぬ女の中にぶちまけられる。
 
「あっ…!はぁっ!…はぁん…。んんっ…。」

 同時に女も絶頂を迎え、私の上で身体を引くつかせながら必死に射精の勢いに耐えている。
 
 男性器の中の残りを絞り出すようにピクピクとした動きに合わせて女の身体も反応する。
 
「あ…ああ…ああっ…。はぁ、はぁ。いっぱい…出ましたね。」

 気が付けば映画もラストシーンに差し掛かっている。

 結ばれることの無い男女の吸血鬼が、二度と会わないことを決意しての終わりのキス。
 
 映画はもう終わってしまうが…私の前に突然現れた女との物語はまだ終わらない。
 
 獲物として捕らえられた私には、女の物語を最後まで観なければいけないような気がする。

 そんな決意を込めて、私は女に服するキスをした…。

*****

「ん…あっ…ああっ!」

 いつも通り3番シアターの上映が始まった。

 シアター内の暗闇の中、名前も知らない女の喘ぎ声が聞こえる。

 スクリーンに映るのはこの作品の冒頭であり最も有名なシーン。

 媚薬に溺れる複数人の淫靡なプレイが流れると、その登場人物の一人のように女は自慰を始めた。

(ように…ではないのかもしれない。)

 女の目の前では、確かに多くの男女が入り乱れながらお互いの身体を求めているのだ。

 女もその媚薬に当てられ、男根を求め、自らの性器に手を伸ばしているのだろう。

 女を囲むように男が二人近づくと、女は右手で自分の性器を責めながら男性器を口で咥え、残った左手で反対の男性器を弄る。
 
 その姿を見て私も女に近づく…。

『待っていたわ…楽しみましょう。』

 映画の台詞に合わせ、女が自分の性器をクパァと広げる。

 私も登場人物の1人として、この淫らな世界に没頭している。

 挿入し、動かし、媚薬のせいにしてただひたすらに女を求める…。

「あっ!んんっ!ああっ!!!」

 もう、以前の様に声を抑えることはしていない。

「気持ちいぃ!んん!大きいっ!」

「いやぁぁ!いやぁ!ああっ!!」

「知らないぃい!ああっ!こんな気持ちの良いセックスぅぅっ!」

 周りでも次々と行為が始まっている。

 これが女の物語。

 初めての行為をしてから、私と女の共感が他者への共有となり、この密室空間の中で広がっていったのだ。
 
 スクリーンの中で共有していた私達の感覚は、現実の人物を誘惑して、3番シアターの中で新しい作品となり、多くの感情を観客たちに曝け出していくのだ。

「もっと!もっと私を求めて…一緒にっ…んんん!?イッくぅううううう!!!」

「あああああっっ!出ちゃうぅぅぅぅぅぅ!」

「ひっぐうううううぅうぅぅううう!?!?!?」

 そこら中から絶頂に耐えられない女たちの声が響きだす。

 スクリーンの中だとか、観客席だとか、その境界線はすでに崩れている。

 この空間に存在するのはお互いを求め合う男女の性欲だけなのだった。

 名作に触れる時間と言うのはこうも人間の生き方を変えるものなのか…。
 
 私も目の前の名前も知らない女にありったけの性欲を吐き出し、これから先もこの淫らな空間で淫らな観客たちと共感していくのだ。

(了)

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