彼氏ですから
バイト先で出会った和史(かずし)と美織(みおり)は恋人関係。積極的で明るい美織に対し、慎重派で奥手な和史は押されっぱなし。そんな二人の関係がより親密に進展するちょっとした出来事と、仲直りで燃え上がる行為の一幕のお話。
休憩室で遅い昼食を終えた和史(かずし)は、文庫本を読んでいた。ペットボトルのコーヒーをちびちびと飲みながら和史はページをめくる。
そんな彼の背後にあった休憩室の扉が威勢良く開けられた。
「っつかーれっす」
入室したのは和史と同じエプロンをつけた女の子で、ぐるぐると肩を回しながら彼の前にある椅子に腰を下ろした。
「お疲れです、星野(ほしの)さん」
「美織(みおり)でいいって言ってんじゃん。なに読んでんの?」
「……古いラノベです」
「おもろい?」
「僕は好きです」
「ほーん」
訪ねておきながら、彼女は大して興味がなさそうな態度ですらりとした脚を組む。そして、ポケットから取り出したスマホを弄り出した。
それを見て和史は美織から視線を外す。
「つーかさぁ、また勝てないんだけど。手伝ってよ」
「えぇ……」
面倒くさいと露骨に顔に出た和史に、つつっと彼女は近づいてくる。
「いいじゃん、この前にみたいに手伝ってよ」
美織が言っているのはスマホでプレイできるソシャゲのことだ。
しかし、あまり熱心にプレイしているわけでもない和史の対応は素っ気ない。
「攻略サイト教えたじゃないですか」
「一緒にやろうって誘ってんじゃーん、分かれよー」
べしっと肩を叩かれ、和史は文庫本から顔を上げる。すると思ったよりも近くに美織の顔があり、慌てて和史は顔を逸らす。彼女は和史のその反応を楽しむように口の端を持ち上げ、片方の耳に髪をかけた。
「お礼するからさ、和史」
ふぅっと耳朶に息を吹きかけかれ、和史は文字通り飛び上がってしまう。
「あはは、ウケる」
「……なんも面白くないですよ」
「でもさぁ、ちゃんとお礼はするって」
顔の距離が近いまま美織は囁く。お互いが正面から向き合っていれば息が触れ合う距離だ。もっとも、和史に彼女と正対するような度胸はないが。
どきどきと意思に反して動きが早くなる心臓を宥め、和史は美織から距離を取ろうとする。だが、彼女は許さない。顔を背けて隙だらけの和史の胸板へ手を伸ばし、優しく撫でた。
その感触は羽毛の先で甚振られているような、そんなじれったい快感を彼の胸板にもたらす。ただ胸を撫でるだけで相手にこんに快楽を与えられるのは、彼女が淫魔の生まれ変わりだからなのでは、と下らないことを考えて和史は堪えようとする。
だが、そんな現実逃避を美織は許さない。
「ちんちん、おっきくしてるじゃん」
言われて下を見れば、和史の股間が膨らんでズボンどころかエプロンまで押し上げていた。胸を弄られただけでこんなに勃起してしまう自分が情けなく、和史は俯いてしまう。
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