心を満たし溺れるもの (Page 4)
「なんでもします、だから」
「何でもするというなら、風俗ででも働いたらいかがですか? 何だったら伝手があるので働き先を紹介しますよ」
苛立ち紛れに言葉を宙に投げてから、加藤は顔をしかめる。苦いものが口の中に広がったように感じ、彼は歯を噛み締めた。だが、これで澄佳も諦めるだろうと加藤は自分を慰める。
「知らない人と、そんなこと……」
きっと彼女のイメージの中で性産業に従事する人間は全員が客と寝ているのだろう。 忌避する様子の澄佳を見て加藤はそう思った。
実際はそんなことはないし、仕事にある程度のプライドと倫理観を持って従事している人間もいる。反対に稼げる仕事と割り切っている人間もいる。要は、この世の中にある大多数の仕事と同じだ。
だが、あえて加藤は彼女のイメージを訂正したりはしない。勝手なイメージで忌避して交渉そのものを止めてもらえれば、まだ御の字だ。
「私を……」
震える声で澄佳が縋りついたまま言う。
「私を、好きにしてください」
「は?」
「し、知らない人に、そんなことはできません。だけど、先生なら、知っている方だから……」
どういう理屈で彼女が自分を納得させたのか、まるで加藤には理解できない。
いっそのこと知らない人間を相手にした方が後腐れないと加藤は思うのだが……。
彼が呆れていると、澄佳は足元に跪いた。それからおずおずと加藤の性器をスラックスの上から撫で始めたのだ。
「やめてください」
反射的に加藤は、彼女の手を振り払う。
性欲よりも理性が勝った。
どう考えても、生徒の母親と関係を持つのはデメリットが大きすぎる。得られるものは性的快感。反対に失う危険があるのは短期的には澄佳から得る月謝で、長期的には塾そのものを失う可能性すらあった。メリットなど皆無である。
「先生。お願いします」
自分を振り払った加藤の手を握り、澄佳は濁った光を湛えた目で見上げてくる。
その目を見て加藤は、閃いた。
眩い瞬きのような閃きが去ると、暗渠のような理性が蠢いて加藤を衝き動かす。
「奥へ行きましょう。そこだと、誰かに見られてしまう」
静かに告げた彼の言葉に澄佳がこくりと頷き、二人はブラインドを下ろした教室の隅へ移動した。
普段は子供達が勉強をしている一角で、講師と母親が事に及ぶ。その事実に興奮しているのか澄佳の頬は微かに上気し、瞳は妖しく潤んでいた。
椅子に座って足を開いた加藤の股の間へ、澄佳が何も言われずとも顔を突っ込む。そして、男の股間に頬擦りを始める。
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