無観客の裏側でレス主婦と火遊び (Page 4)
「今度のヘルプは穏便にね」と制作部長は言った
その日は天気も穏やかで、まさに「秋晴れ」な日と言えたのではないか。それでも、コロナ予防のための換気で窓を開けているために、ソファーで寝転がっていたら寒いくらいの体感ではあった。
室内には、ヘルプで他部署からお声のかからない邦夫と副課長の大下、ペーペーの山崎という「浜辺のお騒がせトリオ」と、週イチで経費や予算管理に経理課から出向して来る鈴本さんがいるだけだった。
邦夫の職種は、正確には「イベントディレクター兼コピーライター」で舞台やショーの演出もこなしてきた過去もあった。某ロックグループの全国ツアーの総合演出を手掛けた時には、賞もいただいている。
それが自分の事務所を潰して腐っていた時に、現在所属している会社の社長に拾われたというわけだ。社長が現役のディレクターだった頃は、敵に味方にと、何かと絡んで広告畑を這いつくばってきた仲間でもあった。
副課長の大下と邦夫も旧知の間柄で、邦夫がフリーランス時代に何度か組んだ事もある仕事仲間。彼は、代理店を数社渡り歩いて来た“プロのイベント屋”と言ってもいい。社内的には「第4制作課で相川サンが好き勝手をやれるのも大下副課長がいるおかげ」とまで言われている。
件の海辺のイベントでも邦夫が到着するまでは、見事に事後処理をした腕利きなのだった。
残りのひとりは、2年目の社員・山崎。まだ修業中なので、大下の下についてイロイロと教わっている最中だ。
この祈っている3人に指令が飛んできたのは、遅い昼食にでも繰り出して“すき焼きにするか焼肉にするか”を邦夫と大下が議論していた時だった。その日は経理から鈴本さんが来ていたので、3人で昼から親睦を深めようとしていた矢先だったのだ。
その内線電話は「仕事があるから3人で私の部屋に来てくれ」という、制作部長からのものだった。
私を筆頭に雁首揃えて部長の部屋に入ると、主に通販番組を手掛けている〇社と代理店の△社の現場クラスのチーフも一緒に待ち構えていたのには驚いた。
「実は…」
と、時代がかった仕草で話し出した制作部長によると、
“あまりにディスタンスにばかり気遣っていて、通販番組に活気がなくなってきている”というのだ。いつもは観覧席に、ちょうどイイ具合にヒマそうなオバチャマがわざとらしく笑い声をあげたり、うなずき声をあげたり、拍手したりするアレの集団をなくして“無観客”で収録していたのだが、どうも数字(視聴率や商品の売り上げ等)的に盛り上がりに欠けるらしいという結論に至ったというのである。
「そこで『小回りの利く』、ウチのような会社に白羽の矢を立てていただいというわけだ」。
その言葉とともに、制作部長は起立して制作会社と代理店の2人を私たちに紹介した。
しょうがなく、私らも立ち上がって名刺交換をしたわけだが、さっそく大下が
「〇社さんの仕切りで、上手く回っている番組だって聞いていますよ」
と、相手を持ち上げつつ疑問を投げかけたのだった。同じ点に邦夫も「おや?」と思ったが、どうせショーモナイ事情があるのだろうと、黙っていたのだ。
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