無観客の裏側でレス主婦と火遊び (Page 5)

〇社側としては、ソーシャルディスタンスで観覧客を3組に分けて収録を同時に別室で観てもらいながら、『歓声をあげてもらう』のに「スタッフが慣れていないから」と、のたまわっている。要は人手不足という事か。
それでも、スポンサー企業の了解は得ているので、「今さら変更できない」とも訴えていた。
代理店の担当者もうなづいていた。

「ウチが受けると決めているのなら、兵隊の我々はやるだけですから。担当部署を教えてください」
邦夫が言うと、相手側はほっとしたらしく、

「相川さんが出てくるとは思いもよらなかったので。次は大きな仕事を回しますから」
と代理店の△社の社員は恐縮していた。どうやら、いくら制作部長の命令でも「イヤならやらない」と、断る可能性も考えていたらしい。

だが、邦夫としては山崎も減俸中の身なので、できるだけ穏便に済ませる気で最初からいたのであった。
結局、第4制作課の自称・精鋭3名は、みずから観覧者募集に応募してきた人や仕込み(サクラ)のオバチャマの3部屋をひとつずつ担当する事になった。主な業務としては部屋への入れ込みや、帰りの送り出し、休憩後の点呼等々だ。
迷子になったフリをして、スタジオ内を物見遊山でウロウロしたり、お目当ての「往年のスター芸能人」を見に行ってしまわないかの見張りもある。
一応、各部屋には〇社のディレクターとADがつく事になっているが、これが“使えないヤツ”や“自己主張ばかりして融通の利かないヤツ”だったら、手に負えない。「ハズレ」を引いたら実に大変な1日になってしまうのが目に見えている。

それと、「スケジュールがキツい」のも依頼された理由のひとつだった。明日の午前中に〇社内で打ち合せ、明後日が本番。確かにタイトだが、内容を考えると「そんなもんだろう」と、邦夫は納得していた。多分、大下も同じであったはずだ。
そんな進行なので邦夫は制作部長の許可を取って、このまま3人を直帰扱いで電話番から解放してもらうように頼んでみた。

「やる事さえヤってもらえれば、それでいいですよ。とにかく、他者との相乗りというかヘルプですので“穏便に”お願いしますよ」。

こうして、やっと3人は念願の昼食にありつける運びと相成った。軽く社内打ち合せと称して、飲みに行く事にしたのだった。すき焼きも焼肉も次回のお楽しみに取っておく事のしたのだ。ディスタンスで、店は遅くまでやっていないので、課内経理の鈴本さんも安心しているのが分かった。

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