馴染みのからだ

・作

尾田杏奈と高橋将吾は元恋人で、21歳の頃から3年間交際していた。別れてさまざまな経験をしたことで、杏奈は初めての恋人だった将吾とのセックスが実は「いいもの」であったことを知った。そんなある日、杏奈は会う約束をしていたセフレにドタキャンされてしまう。その日どうしてもセックスがしたかった杏奈は、思わず元恋人である将吾に連絡してしまい…

「久しぶり」

尾田杏奈が玄関のドアを開けると、高橋将吾はにやにやと笑って立っていた。
自分が彼を呼び出したのに、杏奈は苦虫を噛み潰したような表情で彼を迎え入れた。

「え、なんか冷蔵庫変えた?」

部屋の中をじろじろ眺め回しながら、将吾は付き合っていた頃と何も変わらない遠慮のない様子でベッドに腰掛けた。

「壊れたから…」

乾いた声で答えながら、この男を部屋に呼んだことを杏奈は少し後悔し始めていた。
そして3時間後、事が終わった頃にはきっともっと明確に後悔するだろうこともわかっていた。
しかしそれでも、今夜はどうしても杏奈は欲望を抑えられなかったのだ。

「てか何?めかし込んでんじゃん」

「…本当は出かける予定だったから」

「あ、男にドタキャンされたとか?」

「…」

「図星?うけんだけど」

「いいから、そういうの」

吐き捨てるように杏奈は言ったが、将吾の指摘は当たっていた。
杏奈は今夜、1ヶ月ぶりにセフレと会う予定だった。
セックスするために今日は朝から準備を整えていたのに、待ち合わせの1時間前になってキャンセルの連絡が入ったのだ。
メイクもヘアセットも完璧に済ませ、家を出て駅に向かう途中だった杏奈の落胆は、情けないが大きかった。

スクラブで肌を磨き、わずかな体毛を処理して、陰部も専用のソープで丁寧に洗った。
浴室から出たら全身をクリームで保湿する。
特別に肌がなめらかになる気に入りの高級ボディクリームは、セックスする予定のある日にだけ使っているものだ。
これだけで実際2時間はかかる。
つるつるに仕上がった体にとっておきの下着と触り心地のいいニットワンピースを着て、崩れにくいように時間をかけて下地から作り込んだナチュラルメイクを施すところまでやったのに、この「装備」を、誰にも抱かれることなく1人家で解く気にどうしてもなれなかった。

「シャワーは?」

杏奈が部屋の照明を少し落として将吾の横に腰掛けると、将吾はすぐにその腰に手を伸ばした。

「浴びた方がいい?」

言いながら、将吾は杏奈の腰を撫でていた手を上にあげて乳房に触れた。

「…っ、べつに…どっちでもいいけど」

杏奈が小さく身体を震わせながら言った。
将吾の首筋からはほのかに石鹸の香りがして、将吾も「そのつもり」でここに来たのだと思うとぞくぞくと杏奈の期待が湧き上がる。

「だよな」

圧するように言って、将吾は杏奈に口付けた。
杏奈の柔らかく厚い唇はふにっと将吾を受け入れ、うっすら開いたその割れ目から将吾はぬるりと舌を差し込む。

「んっ…ふ、ぅ…っ」

さっきまでのつっけんどんな態度が嘘のように、杏奈は甘い声を漏らした。
杏奈は普段はさっぱりした気性で、誰かに媚びることのない自立した性格なのだが、ベッドでは豹変する。
セックス中だけは甘い声でにゃんにゃん喘ぎ、こちらに媚びてとことん快感を欲しがる。
感じやすくて反応が大きく、甘えたがりの最中の杏奈と、普段のサバサバした杏奈とのギャップが、恋人だった頃からいつも将吾の劣情を煽った。

「ぅん…んんっ」

くちゅくちゅと音を立ててキスをしながら、将吾は杏奈の服を脱がせ始めた。
別れてから年数はそれなりに経っているはずなのにあの頃と変わらない吸い付くような杏奈の肌の美しさに、久しぶりに将吾も激しく興奮していた。

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