青い薔薇の観察者は幼い蕾を育てる (Page 6)
しばらくは絶頂の余韻に二人とも浸っていたが、先に平静さを取り戻したのは澤木の方だった。後部座席で寝息を立てている鈴鹿に毛布を引っかけ、夜の間に事務所へと舞い戻る。
一夜明け、澤木は依頼人に定期報告をするためシャワーを浴び、髭を剃った。疲労が残っている彼と比べ、鈴鹿はけろりとした顔で同伴している。
二人は待ち合わせ場所として指定された喫茶店へ出向き、依頼人を待つことにした。澤木は何度も会っているが、鈴鹿は初対面である。顔繋ぎの意味合いが澤木としては強い。しかし、肝心の鈴鹿は何も分かっていない様子で、モーニングメニューを真剣に検討している。
澤木はさっさとコーヒーだけ注文し、目を閉じた。寝不足気味で起きているのが辛いのだ。
「お疲れ様です。澤木さん」
頭上からの声に澤木は姿勢を質した。付き合いが長いとはいえ、クライアントはクライアントだ。そのあたりは弁えねばならない。
「お疲れさん。ほれ、お前も挨拶しな」
促すと鈴鹿が緊張にひっくり返った声で自己紹介をした。それを笑いながら、澤木は対面に座った男と対峙する。年齢は澤木と同じぐらいだが、ずっと洗練さて落ち着いた雰囲気の男だ。
「古賀(こが)さん。今回は定期報告のついでに、こいつと会わせておきたくてね」
「なるほど、最近噂になっている澤木さんの助手の方ですね」
「助手なんかじゃない、こいつは俺ができることをそのうち全部できるようになる」
「お弟子さんでしたか」
「そんなようなもんさ」
古賀は柔らかく微笑み、鈴鹿に向かって手を差し出す。
「古賀と申します。どうぞ宜しくお願いします」
「あ、はい。鈴鹿です」
おずおずと鈴鹿は古賀の手を握り返す。
「古賀さんは、この前言っていた裏オプションの、まあ、なんだ、アレの上手い人だ」
「ええっ」
「うちの上得意だからな、顔覚えてもらっとけ」
苦笑している古賀と、目を白黒させている鈴鹿を見比べ、澤木は溜息を吐いた。
「いつになったら、俺の薔薇は咲くのやら」
澤木のその呟きは誰の耳にも入らなかった。だが、溜息とは裏腹な楽し気な笑みを鈴鹿にはしっかりと見られていたのだった。
(了)
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