青い薔薇の観察者は幼い蕾を育てる (Page 3)

 我慢できなくなったらしく、女はスマホを手放した。空いた手は下半身を慰める。仰向けになり、背を弓なりにして腰を突き出す。一人きりの快楽に身を委ね、女はあられもない姿を晒していた。
 それを眺めながら澤木は何とも感じていない。望遠鏡を使って観察し、情報を頭の中に整理していく。相手がどんなペッティングを好むのか、唇の動きを読み何か口走っていないか詳細に観察していた。そうしていると相手が生身の人間というよりも、美しい野生動物のように思えてくる。

「うぅん」

 低い呻きが耳に入り、澤木はちらりと隣に目をやった。鈴鹿がもぞもぞと体を動かしている。

「あんまり動くな」

「だって……」

 鈴鹿の声は切なげで艶めいていた。

「最近、あんまり構ってくれないし」

「大人しくしてろ。奴さんが終わったら、ご褒美をやるから」

「ほんとに?」

「本当だ。けどな、仕事の時は集中しろ。それが出来たらご褒美だ」

「いじわる」

 澤木は再び意識を対象に向ける。
 寝室で女の身体が妖しく蠢いている。肉欲に溺れ、寂しさを無理矢理に埋めるかのように激しく指先が己の秘裂を苛む。かくかくと腰が動き、自らの意志で制御できない快楽の波に足が痙攣するように動く。

「そろそろか」

 澤木の呟きと呼応するかのように女がぎゅっと体を縮めた。ぴくぴくと震えていたが、やがて弛緩し身なりを整えるとシーツにくるまった。

「終わったみたいだな。五分だけ様子を見て動きがなかったら引き上げるぞ」

「……うん」

 小さな声で鈴鹿が返事をした。
 やれやれと澤木は内心で溜息を吐き、望遠鏡の向こうへと意識を戻した。
 それから五分。対象に動きはなく、二人は引き上げることにする。念のため周囲の様子を探り、機材を回収してビルを降りた。建設中のためエスカレーターなどなく、長い階段を足音を殺して降りるのには骨が折れる。
 監視カメラの類がない道を選んで歩き、『ブルー・ローズ』の息がかかったコインパーキングに停めた自動車に戻った。バンの広い後部座席で、二人はニット帽やバラクラバを外す。
 機材をハードケースに仕舞い込み、澤木は運転席へ移動しようとした。だが、その動きが停まる。彼を止めたのは鈴鹿の手だった。彼女の手が澤木の手を掴んでいる。

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