俺のために踊れ (Page 3)
「あううっ……」
男の欲望を中で受け止め、志乃がうめいた。そして、満足げな笑みを浮かべる。
治は志乃に訊いてみた。
「……この関係、嫌じゃないのか?」
意外なことを訊かれたように、少し驚いたような表情をした後、志乃が答えた。
「……夫以外の男性に抱かれるのは嫌でしたけど、あの家を裏切っていると思うと勝ったような気になれるんです」
「どういうことだ?」
「夫の家は旧家で、私はバレエをやめて専業主婦になれと、特に義母から言われているんです。何とか説得して講師を続けていますが、今度のコンクールで優勝できなかったらやめるよう言われています。そんな状態なので、あなたに抱かれると、あの家を裏切っている自分になれるので嬉しくなるんです」
「だから事故を隠したかったのか」
「はい。事故を起こしたと知られれば、辞めろと言われますから。……この関係は、ささやか……と言えるかは分かりませんが、私の初めての反抗なんです」
志乃はいつになく自分の気持ちを話していた。誰にも言えずに抱え込んできたのだろう。
「でも……本番ではいつも緊張して失敗してしまうんです。だからせめて講師にと……バレエを奪われたら、私……」
「そのコンクールっていつだ?」
「1週間後です」
ちょうど、契約が終わる日だった。
*****
1週間後、治はバレエコンクールが行なわれるホールに出向いた。
本番が始まる前のピリピリした緊張感が漂っている。
治は志乃を呼び出した。
教室の時とは違い、鮮やかな水色のドレスを着ていた。
「あの……もうすぐ始まるので……」
緊張のために表情が強張っている志乃の胸をつかんで力強く揉んだ。
「あっあの……」
「契約は今日までだ。逆らうな」
レオタードをずらし、いきなり指を突き入れる。
「ひっ」
最初は固かったが、ゆるゆる動かしていると緩み、濡れてきた。
挿入すると絡みつき、治自身を包み込んでくる。これを手放すのかと思うと名残惜しかった。これが最後だと何度も何度も突いて思いを振り切る。
「くううっ……」
中出しし、しばらくお互いに荒い息をつく。
「……あんたは綺麗だ。いくらでも抱きたくなる」
志乃が無言で見つめてきた。
「舞台では家のことなんか忘れろ。観客のこともだ。俺だけを見て、俺のためだけに踊れ。俺に見せつけてみろ、好き勝手抱かれたままじゃ悔しいだろ」
志乃は少し治を見つめ、やがてかすかに微笑んだ。
治は客席に座った。
やがて、志乃が舞台に現れて踊り始めた。
緊張がとけた志乃のバレエは思わず見入ってしまうほどの美しさだった。
こんなに美しいものを犯していたのかと、治は今更ながら驚いた。踊り終えて志乃がお辞儀をすると、盛大な拍手が起こった。
それを聞きながら携帯電話を取り出す。志乃の番号を消し、立ち上がるとホールを後にしたのだった。
(了)
急にハードボイルドで草
ゴルゴ13かと思った
うい さん 2022年5月24日