式の前日 (Page 2)

「ん、都、出すよ…」

僕たちは同時に果て、都の身体が弓なりになると共に、中に熱いものを注いだ。

都は恍惚の表情を浮かべて、果てた後もしばらく呆然と繋がりあっていた。

抜いたあと、彼女は自分のヴァギナについた愛液や精液をティッシュで拭いながら、「私も弓弦の子供が生みたかったな」とポツリと呟いた。

それは決して叶わぬことだからこそ、僕は何も言えなくなる。

「明日、都は着物か?」

「そのつもりだけど」

「そうか。君ならきっと、綺麗に着こなすんだろうな」

都は少しだけ微笑むと、「ほら、新郎くんは早くお嫁さんのところに帰らないと」と、途端に母親のような口調になる。

 

いや、母親のような、ではなく、母親なのだ。

都は、僕の妻になる女性の。

 

もちろん、当初は都とこんな関係になるなんて思いもしなかったのだ。

数年前、僕と妻が同棲をしているマンションに、都が痣だらけで駆け込んできたことがきっかけだった。

その日、妻は同窓会で出かけており、マンションには僕しかいなかった。

都は昔から暴力グセのある夫がなかなか離婚に応じてくれず、子供が独立してからもずっと支配されたままの生活を送っていた。

泣きながら辛い胸の内を明かす彼女の背中を撫で続けているうちに、僕たちは何とも言えない空気に包まれた。

無論、リスクを考えないわけではなかった。

僕は妻との結婚を視野に入れ、都は妻の実の母親だ。

そんな二人がセックスをしたところで、得るものは何もなく、失うものばかりだと気付いていた。

それでも、僕たちは肌を重ねる道を選んだのだ。そして、その道を選んだことを幸福に思った。

結婚式の前日も、家族に嘘をついて会うほどに。

 

僕たちは身支度を整えて軽くキスをすると、時間をずらしてラブホテルを出た。

あと十数時間後には、式場で再び顔を合わせる。

僕は新郎として。都は新婦の実母として。

(了)

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