出張の相部屋で

・作

部下の内山茜と2人で出張に来ていた課長の林和幸。しかし宿泊する予定のビジネスホテルはシングルルームではなくツインルームが1部屋しか用意されていなかった。和幸はその部屋を茜に使わせて自分は別のホテルを探そうとするが、茜に引き止められて結局同室で夜を明かすことになってしまう。あってはならないことだと考え、冷静にいようと努める和幸だったが、積極的すぎる茜の誘惑に思わず一線を越えてしまうのだった…

「課長…」

青ざめた顔で部下の内山茜が駆けてきた。
ビジネスホテルのロビーはやや人が多くざわついている。

「どうした」

嫌な予感が、課長の林和幸の脳裏によぎった。

「予約が間違っていたみたいで…」

ほとんど泣き出しそうな顔で、茜は説明を始めた。和幸の感じた嫌な予感の通りの説明を。

「シングル2部屋の予約をしたはずなんですけど…ツインの1部屋になってて…それで…」

しどろもどろで視線を泳がせながら、茜は想像しうる限り最悪の状況を伝えた。

「今日は他に部屋が空いてないって…」

「はぁ…」

思わずため息が出たのは、出張先での仕事ですっかり疲れ果てた身体をさっさと休めようと期待していたのにその当てが外れてしまったからだ。

「申し訳ございません…」

しかし若い彼女をこんなことできつく叱るべきではない。仕事に前向きで熱心な彼女の珍しいミスなのだからと自分を諌め、和幸は苦笑いで答えた。

「いや、仕方ない。内山がその部屋を使いなさい」

「え?」

「私はこれから別のホテルを探す。会社への報告と精算の手続きは明日にも経理に確認して…」

「待ってください!」

「なんだ」

「…い、今からホテルを探すなんて…課長にそんなこと…」

確かに取引先との会食までを終えてホテルに到着したところだから時間は23時を過ぎている。
もちろん今から別のホテルを探して部屋が見つかるかどうかもわからない。
中規模のビジネスホテルが満室になっているのだから、何があったかわからないが見つけるのは難しいかもしれない。
しかし上司として選択肢はこれしかない。

「大丈夫だから、最悪ネットカフェでも夜は明かせる」

「そんな!だったら私が…」

自分のミスで上司を外に放り出すのは居た堪れないという彼女の気持ちもわかるが、こちらも譲れない。
もはやこのやり取りが面倒だ。

「そんなことさせられる訳ないだろう。明日は帰るだけだ、どうとでもなるから」

「あの、課長がご迷惑じゃなければ…」

「うん」

「同室で休みませんか」

「は?」

今度は和幸が狼狽えて、青ざめる番だった。

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