異世界@そろそろキミが来る頃だと思ったよ

・作

ある日いきなり異世界に送り込まれた、ごく普通のサラリーマンな主人公。何の特殊能力もチートも無しで、元居た現実世界への帰還を目指すのだが……これはボクっ娘女神を昇天させるべく奮闘するサラリーマンのエロい活躍を描いた夢の超大作(5475字)である。異世界を救うのはキミだ!

 それは、単なるセレモニーだったのだ――

 

「せんせい! モヤ・カスミダせんせいっ! 着きましたよ!」

 木や金属がきしむ賑やかな音と酷い振動。
 その中に自分を呼ぶ声が混じる。

「目的地の、マグド・メルレイクに!」

 それは、かなり興奮した若い女性のものだった。

「ん……」

 重いまぶたを無理やりこじ開ける。
 するとそこは、豪華な四人掛けの馬車の中らしいところだった。
 俺は腕組みをした姿勢のまま寝入っていたらしい。

「もう着いたのか……さすがは最新式の蒸気馬車だな」

 向かいの席に座っている青年が、体を捩じって窓から前を見ながら言った。
 派手な鎧をまとい大きな剣を携えている、彼は騎士団の団長だ。

「運転士の腕も確かなのでしょうね!」

 俺の右隣りで興奮気味に喋ってるこの女性は、この国の第一王女だ。
 たしか今年で17になるのか。
 俺がこの異世界に転移した3年後に生まれたのだからな。
 
「……もういい加減、先生呼ばわりは止めてくれんか」

 軋む35歳の体を伸ばしながら言った。
 教師をやってたのは9年間だけで、それも昨年辞めてしまったのに。

「王都から日の高いうちに着くなんて。しかも他の車両も遅れずに……」

 と、まだ25歳で教皇となった、はす向かいに座っている女性が言う。
 
 そういえば、と思って後ろの小窓を覗いてみる。
 すると、小さな蒸気機関車のような発動車が人荷用の荷車を引いていて。
 それら十数台が爆音と共について来ている様子が見えた。

 いま俺が乗っているこの馬車風の車両も、同じように発動車が引いている。
 クロモリやステンレスなどの、異世界にはなかった材料を使っている。
 発動車と合わせて、設計したのは俺だ。

「……もはや神に対し恐懼すべきレベルなのでは」

 と、萎縮した風で教皇の女性が言った。
 それに対し、彼女の隣に座っている団長が首を横に振って見せる。

「先生のなさることだ、信じよう」

 さすがに面映ゆいものを感じる。
 俺が転移した時には、まだ5歳の鼻たれ坊主だったのに。

 だが、信じてもらわねば困る。
 全ては今日の為に積み重ねてきたことなのだから。

「止まります」

 前の小窓ごしに運転士の声が聞こえる。
 そして間もなく、蒸気馬車は完全に停車した。

「わあキレイ。せんせい、早くっ」

 はしゃぐ王女に苦笑しながら、俺も外に出る。
 そこは目的地、高い山の頂上にある大きな湖とその周辺に広がる草原。
 ちなみに地名のマグド・メルレイクとは、この国の言葉で火山湖の意味だ。

 しかしその名を紡ぐ時、人は畏怖の念にとらわれるという。

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