異世界@そろそろキミが来る頃だと思ったよ (Page 3)
「祈りを……!」
教皇の女性が、連れてきた十数人の修道女たちを並ばせる。
そして湖に向かって何やらお祈りを始めさせた。
この湖のことは、異世界に来てからすぐに知った。
だからすぐにでもここに来て、元の21世紀の日本に戻ろうとした。
しかしそこは異世界、道中には魑魅魍魎が居て辿り着けそうになかった。
それで俺は、遠回りを承知で地道に工業の発展に尽くした。
この世界では石炭はあるものの石油は発見されていなかった。
そこで石炭を使う蒸気機関を作り、発電機と電灯も作り出して。
木材不足にあえぐ王都から夜の闇を駆逐したのだ。
魑魅魍魎と言うのは、そのほとんど全てが人の妄想の産物である。
だから、人が恐れる夜の闇が無くなれば、それらも無くなるのが道理。
事実、ゴブリンやエルフなどの目撃談は、それから聞かなくなった。
街道の往来も危険が減り、他国との物資のやり取りも増加した。
経済が(原始的なものながら)活性化し、人々の暮らしも豊かになった。
しかしここのドラゴンに限っては、消えてもらっては困るのだ。
第一王女が7歳になったのを見計らい、彼女の教育係になる事を申し出た。
その頃の俺は、王をはじめ城の関係者から博識な錬金術師と目されていた。
それ故すぐに採用され、その上本格的な学校まで用意されたのだ。
そこには、子供の頃の教皇や団長も居た。
大学で学んだ物理や数学などの知識が役に立った。
ただ、文系は苦手だった。
だがここのドラゴンだけは実在すると、それだけはしつこく教え込んだ。
それも王国の発展の為に滅ぼすべき対象だと何度も繰り返して。
「せ、せんせいっ、あれを……!」
傍らの王女が湖の方を、怯えながら指さす。
するとそこには……
「全砲門、狙ええええっ!!」
団長の大声が響く。
湖の中ほどに忽然と現れた、巨大なドラゴンに対してのものだ。
「先生、現れました!」
教皇の女性が驚きを隠さずに。
頭部が3つに尾が6本、全長は50メートルくらいはあるか。
教え込んだ甲斐があって、これはこれは見事な聖獣だ。
「うむ」
よくやった、という意味を込めて(伝わらないだろうが)頷いて見せる。
そして、団長に指示を出した。
「退治せよ!」
「了解! 撃ち方始めえええええええっ!!!」
口径10センチの黒い筒と銀色の砲弾。
砲弾の形状は座薬に近い。材質は鉛。宗教的な意味合いで銀メッキ。
撃ち出す仕組みは、蒸気機関によるエアガンだ。
つまり、馬車や荷車を引いてきた発動車は、同時に戦車でもあったのだ。
「ううおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
数十人の砲兵たちが野太い声を上げる。
発射の瞬間の急激な気圧変化に対応するためだ。
そして同時に、蒸気機関による十数本のエアガンが一斉に轟音を上げた。
「ギュウィヤアアアアアアアアッツ!!」
被弾し、叫び声をあげるドラゴン。
テストで大岩を砕く威力を確認してはいたが。
実際に聖獣にも効くのを見て、周囲に安堵の空気が流れる。
「休むな! 第二斉射! 装填!!」
団長の命令に、我にかえった工兵や砲兵たちがまた忙しく動き回り。
各々の2発目の準備を終えた。
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