終電のカップル (Page 2)
車内は金曜の終電にしては空いていて、ドアのすぐ近く、シートの端に2人は並んで座ることができた。
「皆ももう解散してるかなー」
ため息をこぼすように莉子がつぶやいた。
「どうだろうな、いつもだったら終わってるくらいの時間だからな」
「あー行きたかった…」
上司への怒りがひととおりおさまると、湧いてくるのは寂しい気持ちだ。
久しぶりに仲間と騒げると思っていたのに。
「次は絶対いけるさ、来週にでも俺が企画しようかな」
俯いた莉子の顔を覗き込んだ陽平がおどけた笑顔を見せると、莉子の表情もふっと綻んだ。
その時。
「…っん…」
2人の会話の隙間に、不穏な女性の声が聞こえてきた。
泣き声かと思った莉子がとっさに顔を上げて周囲を見回すと、2人が座っている向かい側のドアにもたれかかったカップルが濃厚に絡み合っていた。
いつからそうしていたのか、どうして今まで気づかなかったのかわからないが、そのカップルと思われる男女は互いの身体に腕を回して抱き合いながら貪るようにキスをしていた。
莉子は一瞬目を見開いて、そのあまりの光景に驚いた。
そして気がついてみれば、混雑していない車内では彼らはとても目立っている。
莉子は気まずい気持ちになりながらも、そのカップルから目を離せないでいた。
莉子と同じタイミングで、陽平もそのカップルに気づいていた。
モデルや俳優のような美男美女でない、ごく普通の若い男女がそうしていることがかえって生々しく、エロティックに陽平には見えた。
平時の自分が忘れている欲望の延長線上にいるような絡み方をするカップルを、隣に莉子がいなければもっとじっと見ただろうなと陽平は思った。
車内の他の乗客も、イチャつくカップルには気付いているようだった。
しかし誰に見られようがお構いなしにカップルはキスをどんどん深めながら続けている。
女性の方は喘ぎという程でもない甘い吐息を時折漏らす。
見られても構わないというより、見せることを楽しんでいるかのようだ。
都会で暮らして電車通勤をしていれば、様子がおかしな人に遭遇することはままある。
しかしここまであからさまに「プレイ中」の人を見たのは莉子は初めてだった。
その男女を見つけてから、莉子は隣に座る陽平と身体が一面触れ合っている状態であることを急に意識し始めた。
そしてそれは陽平も同じだった。
莉子と触れている腕の部分だけが、熱を持っていくような感覚がある。
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