裏切りの味は

・作

園部真尋(そのべ まひろ)は宅配の住所間違えから同じマンションに住む青年・誠吾(せいご)と知り合う。真尋は夫とのすれ違いに倦んでおり、好ましい誠吾の登場に心を揺らがせてしまう。その揺らぎはいつしか夫への仄暗い裏切りの感情へと変わっていくのだった……。

買い物を終えてマンションに帰ってくると、管理人室の前で管理人と青年が話し込んでいた。
 それを横目で見ながら真尋(まひろ)は集合ポストの中を検める。ポストの中にはチラシが数枚入っているだけで、真尋や夫に宛てたものはなかった。

「あ、園部(そのべ)さん」

 管理人に呼ばれ、真尋はチラシから顔を上げる。
「これ、園部さんのとこにじゃないですかね」
 そう言いながら管理人が差し出したのは、小ぶりな段ボール箱だ。よく見る通販会社のロゴが入っている。送り伝票に目をやれば真尋のフルネームが記入されていた。

「うちに置き配されてて」
 管理人と話していた青年が付け加える。

 ちらりと真尋は青年に目をやった。目が合うと彼の瞳が青灰色の不思議な色合いをしていることに気付く。
 一方の青年は少し気まずそうにその瞳を伏せ、小さく頭を下げた。反射的に真尋も頭を下げる。

 そんな二人の間に入るように管理人が段ボール箱を真尋へと差し出した。受け取った段ボール箱の送り伝票には真尋の名前。だが、住所も確かに記されていた。どうして、これが青年の部屋へと配達されてしまったのだろうか。

「園部さん、部屋番号を間違えてません?」
「え?」

 管理人に言われ、真尋は送り伝票の住所が記載されている箇所を慎重に確認した。……違う。住所やマンションの名前は正しいが、真尋が住んでいる部屋とは番号が違う。だが、部屋番号は見慣れた数字ではある。

「引っ越してきたばっかりだから」
 苦笑しながら管理人は庇うような口調で青年に告げた。

「……これ、部屋番号だけ前に住んでいた場所みたいです」
 羞恥で頬を赤くしながら真尋は答え、青年をちらりと見た。青年は相変わらず彼女と目を合わせようとせず、気まずそうにしている。

 その微妙な雰囲気を察したのか、管理人が取りなすように青年の肩を叩く。
「まあまあ、誠吾(せいご)君は何にも悪いことしてないんだから」

「すみません」
 管理人の言う通り、確かに青年に非はない。真尋もそう思って謝罪する。だが、青年は細長い指で段ボール箱を指し示した。
「誤配だと気付かずに開けてしまって……。本当にすみません。弁償します」

 子細に見れば、段ボール箱を封じているテープの端が少し剥がれている。それ以上に開封した痕跡は見当たらない。

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