失われるものとの約束 (Page 7)

「思い出せましたか?」

 ひんやりとした吐息が首筋にかかった。

 視線だけを動かし、真横にある千和を見る。

 彼が幼い頃から何一つ変わっていない容貌をした女性を。

「あの下に、梨木千和の体があります」

 村田の家を指さした時と同じような直截さで、千和は一本の木の根元を示した。

「村田が、梨木千和をあそこに埋めました。私はそうして、この姿を得ました」

 そっと千和は幸也の顎を撫でた。

「形を得た私に、貴方が」

 耳朶を甘く噛み、千和は告げる。

「愛を教えた」

 思わず幸也は目を強く閉ざした。それで事態が好転などするはずもないが、それでもそうせざるを得なかった。

「約束を守って、戻ってきてくれたことが、本当にうれしかった」

 冷たい手が幸也の服の隙間から入り込んでくる。くすぐるように肌を嬲った。もう片方の手はズボン越しに幸也の股間を刺激する。

「うぁ」

 その甘美な刺激に思わず幸也は呻いた。

「契りを交わしましょう」

 幼い頃のように幸也は千和に手を引かれ、社の中へ導かれる。あの時と違うことがあるとすれば、幸也の股間がズボンの上からでも分かるほど勃起し、遊び相手を求めているわけではないということだ。

 それは千和も同じだった。

 彼女は幸也のズボンを脱がせると、露出した男根を丁寧に手で愛撫する。裏筋に指でなぞり、睾丸を優しく撫でた。先走りを千和は舌で掬い、飲み込む。淫靡な舌使いに幸也の男根は挑発され、さらに硬度を増す。

 前戯などもどかしく、幸也は千和にのしかかり、衣服を剥ぐ。そして既に濡れそぼっている秘所に強引に押し入った。

 張りのある乳房を掴み、がむしゃらに腰を振って幸也は快楽を貪る。相手のことなど見えていなかった。理性を失ったかのように彼は悦楽に溺れ、あっという間に果てた。

 男根を秘所から引き抜き、そのまま幸也は仰向けに倒れ込んだ。荒い息を吐き、射精の余韻に浸る。その無防備に曝け出された男根を千和は丁寧に口で舐った。その刺激にたちまち幸也の男根は硬度を取り戻す。

 千和は自らの口淫によって反り返った幸也の男根を満足げに見た後、彼に跨った。そして、自らの秘所へと呑み込んで腰を振る。

「あっあっあっ」

 淫靡に腰を振り、千和は恍惚とした表情をしている。その顔を見ていた幸也は凶暴な衝動に駆られ、彼女の腰を掴むと強引に突き上げた。

「ふぐっ」

 びくびくと背を反らし、奥を突かれた千和が腰を引こうとする。しかし、幸也はそれを許さず攻め立てた。それは同時に幸也の快楽も増幅し、二度目の射精感がたちまち彼を支配した。性を解き放つという欲望に逆らわず、膣の最奥で幸也は射精する。

「ひいっ」

 悲鳴のような声を上げて千和も絶頂し、幸也の胸の上へ崩れ落ちた。

 荒い呼吸の音が狭い社の中に満ちていく。

「貴方の傍に……」

 千和が幸也の耳元で囁く。

 

 一人で消え去ることを忌むのは、人だけではないのかもしれない。そんなことを幸也は考えていた。

 彼が研究という形で自らの痕跡を、人の営みの証拠を残そうとしたように。

 名前も、本来の姿すら失った存在と何か残せるのだろうか。

 幸也は残照を見つめながら、失われるだけではない未来へ思いを馳せた。

(了)

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