湯煙に理性は溶けて (Page 2)
湯煙で姿は見えないが、ぺたぺたと裸足の足音が聞こえた。視線を向けないようにしながらも、英彰はつい耳をそばだててしまう。体を洗う物音が、いやでも想像力を刺激した。仕事で忙しく、恋人と会えなかった日が長かったせいもあって、英彰は下半身に血が集まっていくのを感じる。
頭に乗せたタオルで顔を拭き、理性的になろうと努めた。同性か、さもなければ年寄りだ。期待するだけ惨めになるだけだ、と自分に言い聞かせる。
だが、つい目を細めて湯煙の向こうを見透かそうとしてしまう。細いシルエットが動いている。体を洗い終わったらしく、立ち上がるところだった。
柔らかな輪郭に女性だという考えが強くなっていく。期待するなと言い聞かせるが、英彰のモノは硬度を増すばかりだ。
そして、ついに人影が湯煙を割って現れた。ほっそりとした若い女性だ。肉付きが薄くあまり肉感的とはいえないが、瑞々しい若さが感じられる。
「うひゃっ」
どこか間の抜けた悲鳴をあげて女性が足を滑らせた。湯船へ落下し、盛大な飛沫を四方八方に飛ばす。
それら一連の様子を英彰は呆然と眺めていることしかできなかった。しかし、湯船に沈んだ女性がもがいているのを見て英彰は慌てて立ち上がる。それからお湯を蹴立てて駆け寄り、女性を抱え上げた。
「大丈夫ですか!?」
盛大に咳き込む女性の脇に手を回し、引きずるようにして湯船の縁へと運ぶ。いわゆるお姫様抱っこでもできればカッコよかったのだけれど英彰も必死だった。なにしろ目の前で人が溺れていたのだ。ずいぶんと間抜けな状況ではあったが。
「大丈夫ですか?」
同じ問いを再度投げると、咳き込んでいた女性は涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃの顔で礼を述べた。
「ありがとうございまずぅ」
彼女は英彰に手渡されたタオルで顔を拭く。動転しているのか、体を隠そうともしない。女性の裸を見る機会から遠ざかっていた英彰は、一度は落ち着いた下半身がまた熱くなるのを感じる。
幸いにも彼女は英彰の下半身の所業には気づいていない。
逃げるならば、今だろうか。
何食わぬ顔をして浴場を出てしまえば、面倒なことにならないはすだ。
「あの、ちょっと休んだらどうですか?」
しかし、英彰の口は保身と正反対なことを喋っていた。
親切心から出た言葉ではなかった。下心からの発言である。
自分を内心で罵るが、英彰の女性に対して欲情していた。ご無沙汰だった。目の前で溺れられて自分も動転した。そんな言い訳が理性を押し流そうと次から次へと頭の中に湧き出してくる。
ヤリたいんだよ、と本能と感情を凶器にして理性をヤケクソ気味にぶん殴った。恋人に捨てられて、本当に自暴自棄になっているのかもしれない。後のことなど微塵も考えなかった。
女性を湯船の奥まった場所へ、それとなく誘導していく。その間に彼女は顔を拭いていたタオルで体を隠すようになった。大分冷静さを取り戻してきたらしい。英彰はお構いなしに女性を連れていき、温泉に浸かった。
「入らないんですか?」
問いかけられ、女性はおずおずと湯船に体を沈めた。その時、ちらりと視線が英彰の股間に向かったのを彼は見逃さなかった。ぎちぎちに怒張した彼の男根が湯船から少し顔を出していたのだ。
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