幽霊の弱点はエロいこと!?
肝試しで隼人(はやと)は心霊現象に遭遇し、仲間に置いていかれてしまう。幸いにも心霊スポットから逃げ帰れた隼人は友人である綾瀬(あやせ)の元に逃げ込むのだが、そこでも心霊現象が発生してしまう。恐怖が最高潮に達した時、隼人は「幽霊はエロいことが苦手」というネットの話を思い出し……。
街灯の明かりを見て隼人(はやと)は、ほっとした。
人の営みを感じられる街へと帰って来たのだと実感する。今まで車のヘッドライトか、懐中電灯だけが頼りの山中にいたからなおさらだ。
だが、それでも車内の空気は重苦しい。それというのも、命からがら逃げだしてきた廃墟での体験が強烈に尾を引いている。
県内でも屈指の心霊スポット。
そんな場所があると、誰かが言い出したのだ。誰が言い出したのか、定かではない。その時は、現在車内にいる隼人を含めた四人全員と、他にも何人かサークルのメンバーがいた。
ファミレスの明るい雰囲気の中で聞く怪談はありふれていて、別に怖いとも思えなかったのである。
だが、実際に場所を調べ、噂になっている廃墟を目の前にした時、四人は何も言えなかった。出発前や車内では、あれこれと盛り上がっていたというのに。
それでも無言のまま、四人は廃墟を歩き回った。
廃墟は二階建ての横に広い建物で、一階は荒れ果て壁のいたるところに落書きがされていた。罵詈雑言や卑猥な言葉、誰のものとも分からない電話番号などが壁を這い回っていたのである。
無数の落書きはかえって四人を安心させた。
この廃墟に自分達以外の人間が足を踏み入れたのだと。
ほんの少し余裕すら生まれたのである。
そうして四人は一階を見て回り、怖がりながら、笑いすらした。
楽しんでいたのだ。二階に足を踏み入れるまでは。
ぺた。
最初に異音を耳にしたのは、隼人だった。
ぺた。
裸足の足音を聞いた気がして、隼人は懐中電灯の明かりを四方に投げる。ちらりと薄緑色の服の端が光に触れた。
「えっ」
ぺたぺた。
音が連続する。それを追って隼人は懐中電灯の先を動かす。だが、照らされるのは真っ新な壁と折れ曲がった廊下だけで、人影などどこにもない。
「……なんか、聞こえなかった?」
ぺた。
ぺたぺた。
……ぺた、ぺたぺたぺたぺたぺたぺた……。
音は重なり、そして速度を増していた。
「あっ」
隼人は小さく声を漏らす。音の正体がふと、脳裏をよぎったのだ。
「走ってる」
誰かが彼らの周囲を走り回っているのだ。
裸足で。
深夜の廃墟を走り回っている。ぐるぐると、四人を取り囲むように走り回っている足音だ。
隼人以外の三人も気づき、それぞれが音の正体を確かめようと、あるいはパニックになって懐中電灯の明かりをあちこちへと向ける。
目眩がするような光景だ。
明かりがデタラメに交差し、裸足の足音が無数に聞こえる。
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