幽霊の弱点はエロいこと!? (Page 4)

「頼む! は、早く、早く開けてくれ! 綾瀬(あやせ)!」
「近所迷惑!」

 思いっきり開けられた扉に顔面を強打し、隼人の眼前が散る。汗に混じって鼻血が地面へと落ちた。
「うわっ」
 その様子を見て、綾瀬は驚いた声を上げる。
 
 怯んだ綾瀬の脇を抜け、隼人は強引に室内へと体を滑り込ませた。床に倒れ込み、荒い呼吸をする。
「どうしたの?」
 隼人の顔を覗き込み、綾瀬が訊ねる。困惑しているその顔は中性的で、女顔の綺麗系イケメンと言ったら信じるものも多いだろう。バッチリ決めたショートヘアも相まって普段はそういった雰囲気が強いが、今は髪も下ろしており、男性にはない線の細さや柔らかさが前に出ている。
 
 隼人は途切れ途切れに肝試しであったことを話した。
「で、他の連中は?」
「置いて行かれたから、分からない」
「貧乏くじ引いてんね」
 皮肉っぽく綾瀬が言う。
 
 その顔を見ていると隼人は、自分の中に冷静さや理性がゆっくりと戻ってくるのを感じる。暗がりに怯えていたのが、馬鹿馬鹿しくなってきた。
 
「とりあえず、休みたい」
「あたしも。どっかの誰かに起こされたし」
「悪かったよ」
「マジでビビり過ぎ」
「しょうがないだろ」

 やっと靴を脱ぎ、隼人は部屋に上がり込む。
 綾瀬はそれを見届けると、背中を向けた。部屋に戻るのだろう。
 アパートの間取りは1Kで、キッチンと居室の間には引き戸がある。その引き戸を開けた状態で、綾瀬は立ち止まっていた。
 
 寝間着替わりのTシャツと短パンの後ろ姿はほっそりしている。その後ろ姿に普段意識などしない綾瀬の尻の辺りについ隼人は目をやってしまう。
 
「なに? 入らないの?」
「……」

 綾瀬は無言のままだ。
 何気なく隼人は綾瀬の肩越しに室内を見た。
 見える範囲にはテレビがあり、その前にはローテーブルがある。テーブルの上にはノートパソコンがあった。窓にはカーテンが引かれ、床はフローリングでカーペットの類はない。
 
「えっ」
 フローリングの床が無数の足跡で薄汚れていた。
「なに、これ」
 ひっくり返った声で言って綾瀬が隼人の顔を見る。整ったその顔は引き攣り、青褪めていた。
 
 ばんっ。
 窓が叩かれる。
 ばん。ばん。ばんばんばんばんばん。
 

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