生意気アイドル号泣土下座
宝物だった大事な妹を傷つけられた兄は、主犯のボクっ娘アイドルに復讐を誓う。頻繁に更新されるSNSで足取りを追い、拉致した少女を電流&水責め。カメラに向かってみっともない顔で号泣謝罪するまで、絶対に許さない…
俺と妹の千夏は、小さい頃両親に見捨てられ、施設で育った。
自分が18になってからは必死にアルバイトを掛け持ちし、何とかやっすいボロアパートを借りて、2人で貧しくても幸せに暮らしていたと思う。
そんなある日、千夏が芸能プロダクションにスカウトされた。
芸能人なんて苦労するだけだと反対したが、自分も稼いでお兄ちゃんに恩返しをするんだと、千夏は新しくできたアイドルグループの1期生としてデビューしてしまった。
グループの中では際立って可愛かったのもあるし、素直で人懐こい性格がお偉いさんからも気に入られたのだろう、千夏は次第にソロとしての仕事が増えていった。
チョイ役だが映画への出演も決まり、ゴールデン番組のレギュラーにも内定、まだまだこれからという時だったのに―――
…SNSのリアルタイム発信をする奴は危機感が足りないと思う。
俺は目の前で呑気に寝息を立てる女を見て、つくづくそう感じた。
千夏と同じグループのメンバーだった、水無月つばさ。
選挙企画ではいつも妹に勝てず、万年2位だった。
小柄でショートヘア、ボーイッシュな雰囲気で、アイドルを生業としているくらいだからまあそこそこ可愛くはあるが、そんな事はどうでもいい。
寝顔を見ているうちに腹が立ってきて、俺は思い切りつばさの頬をビンタした。
「っ?!!」
飛び起きたつばさは大きな目をぱちぱちさせたあと、大の字でベッドに縛られていることに気付き、細い手足を必死にばたつかせた。
「おはよう。会いたかったよ、つばさちゃん」
「…な、何…?…ドッキリ…?悪いんだけど、ボク忙しいから放してくれないかな?」
俺を見上げて怯えながらも、まだ余裕があるのかテレビと同じボクっ娘口調で言う。
「ああ、すぐ帰れるかどうかは、つばさちゃん次第だから」
「え?」
「はい、それではこのカメラに向かって、謝罪の言葉をどうぞ!」
顔にカメラを向けると、本気で分からないという表情をされた。
「謝罪…?ねえ、何の話?ボク、何にも悪いことしてないし」
「はぁ?お前は半年前の事も覚えてられないくらい頭悪いのか」
「いっ…!ちょっと、やめてよ!マネージャー、そこにいるんでしょ?!ねえ!」
髪を鷲掴みにされたつばさはまだテレビのドッキリだと思っているようで、ドアの方に向かって叫んだ。
「あのなぁ、マネージャーなんているわけないだろ。お前、馬鹿みたいに自撮りに夢中になってる間に攫われただけなんだから」
「…え…?…そんな…嘘…いやっ、触らないで!誰かぁ!!」
「うるせぇ!」
「うぐっ…」
掌で鼻と口を塞いで呼吸を止める。
「…ぅ…んー…んん…、…」
「ぎゃあぎゃあ喚くな。分かったか」
「っ、はぁ、はぁ…!…誰…?何でボクを…」
「俺か?俺は鳴海千秋。お前に恨みがあるんだが、心当たりはないか?」
「知らない。人違いでしょ、もう帰してってば!いい加減にして!訴えてやるから!」
記憶にないのかシラを切るつもりなのか、性懲りもなく元気に喚いてきていたが、俺がマスクを外すと顔色が変わった。
そう、俺と妹は瓜二つで、子供の頃はよく間違われたくらい似ているのだ。
「…この顔、見覚えがあるよなぁ、つばさちゃん」
「…あ…し、らない…あんたなんか知らないったら!」
誠心誠意謝罪すれば無事に解放される最後のチャンスを、つばさはあっさり棒に振った。
「そうか。…夕飯までには帰れないかもしれないな」
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